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「高知競馬」という仕事
     =第3部= 夢の跡流浪記
 【2】

 「日本最小」の限界  ――故・山口瞳「うかうかすれば潰れちまう」

 〈日本一の競馬場である。入場人員の少ないこと、売り上げの少ないことにおいて。うかうかすれば潰(つぶ)れちまう〉

 作家の故・山口瞳さんは「草競馬流浪記」の中で、島根県益田市の益田競馬場をこう書いている。皮肉にも昨年8月、それは本当になってしまった。

 益田競馬場を訪ねたのは昨年の9月半ば。廃止からほぼ1カ月が過ぎていた。  益田市は島根県の西端、山口県境にある人口約5万1000人の街。本県で言うと南国市程度の規模だが、ずっと市の単独で競馬を運営してきた。

コースとスタンドの間に市道が抜ける。朝夕は馬を横目に小学生が通った(島根県の益田競馬場)  「5万人の街に競馬場があるなんて意外でしょう? 益田は昔から馬の飼育が盛んで、戦時中も軍馬用に多く飼われていたんです。そんな経緯で戦後に競馬場ができた。益田で全国に通用すると言えば、競馬場くらいだったのにね」

 競馬場のそばにある事務所を訪ねると、益田市競馬事務局の山田建男業務係長がそう話してくれた。山田さんは競馬を担当してきた市職員で、同僚の職員と残務整理のさなか。

 益田競馬は日本一、規模の小さな競馬場だった。

 「1日の入場者が1000人を超えれば上々。その売り上げが2000万円台。高知さん(高知競馬)の4分の1くらいでしょうか。それでも何とかやってこれた。規模の小さな分、経費も少なかったですから」

   □────□

 益田競馬は昭和22年に開設された。過去にも赤字が出ることはあったが、深刻な状況ではなかった。

 しかし、平成8年度を境に赤字が急増した。8年度の赤字は8900万円、9年度1億4000万円、10年度2億1000万円…。雪だるま式に赤字が増え、存廃の検討が始まった。

 廃止の引き金は14年2月、市の行財政審議会が出した緊急答申だった。

 「その答申に具体的な数字が入っていたんです。『累積赤字が15億円に達した時点で廃止すべきである』と。市の財政規模ではこれが限界だ、と」

 そのとき、累積赤字は14億9400万円に上っていた。答申に従えば、後はなかった。

 「でも、報道で知ったファンが買い支えたんでしょうね。直後の売り上げが伸びたんです。14年度の開催が始まってすぐ2億円も売れて、累積赤字が14億3000万円ほどに減った」

 わずかながらも存続の可能性が出たが…。

 累積額が答申ラインの15億円に達する直前、市長は廃止を決定した。

   □────□

 事務所を出た。競馬場は人影もなく、ひっそりとしていた。騎手だろうか、廃止後のコースで黙々と攻め馬を続けている。

 風変わりな競馬場だ。観客席とコースの間に市道が抜けている。

 「市道だからレース中でも車が通るんです。朝夕は小学生が通学したりもします。『レースの臨場感を損ねる』と、ファンには不評でしたけど…」

 益田競馬は、昨年夏の盆開催が最後になった。皮肉なことに、最終日の8月16日は益田競馬の55年の歴史の中で過去最多の入場者を記録した。

 【写真】コースとスタンドの間に市道が抜ける。朝夕は馬を横目に小学生が通った(島根県の益田競馬場)

平成15年1月24日付夕刊掲載


【続き】

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