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奈半利町 地域で育てる後継者

「隣の人がうちの庭を耕してくれるんです。知らないうちに。で、今ではトマトやらネギやらの畑ができてます」
松本淳さん(29)はそう言って笑う。伊瀬幸樹さん(29)も「帰ったらナスやスイカが置いてあるなんてざら。誰が置いていったか分からないのが困る」。山下俊徳さん(27)は2人の隣で、うんうんとうなずいている。
安芸郡奈半利町の東南端、加領郷。神奈川県で漁師や潜水作業員をしていた松本さんと伊瀬さんは昨年、Iターンでこの地にそれぞれやって来た漁業研修生だ。仙台市で会社勤めをしていた山下さんは今年加わった。
海が好きだから
県は12年度、漁業への新規就業を目指すIターン、Uターン者を対象にした技能研修事業を始めた。後継者不足に悩む漁業の活性化策で、現在3カ所ある受け入れ先の一つが加領郷漁協だ。3人はこれを知り応募した。
加領郷は10トン未満の小型漁船を使った釣り漁が盛ん。沖に船を出し、キンメダイやイカ、カツオなどを釣り上げる。ただ、操業はすべて1人。きつい仕事だから、若者は敬遠しがちだ。
だが、3人は違った。「海が好きだから。それに腕一本で稼げるのも魅力」(松本さん)。仕事のだいご味も次第に分かってきた。「潮の流れ一つで釣れなくなる。奥が深いなと思う半面、釣れたときの喜びといったら最高です」(山下さん)
研修期間は2年。1年目はベテラン漁師の船に同乗し、仕事の流れから船の操縦、釣り方などを学ぶ。2年目は独立に備え、自分の船を購入して漁に出始める。指導役の1人、山本耕吉さん(75)は言う。「皆まじめで熱心やから必ずものになる。知っちゅうことは全部教える。それで港がにぎわって、地域が明るくなればいいねえ」
もっと怖いかと
3人は今、加領郷の空き家や公営住宅に住む。都市部での生活から一転、人口約320人の集落で暮らすことに抵抗はなかったのだろうか。
伊瀬さんは「車さえあれば困りません。地区の人も親切なので過ごしやすいですよ」。休みの日、仕掛けを習いに近所の漁師の家に行くと「飯でも食わんか」「今から温泉に行くぞ」と誘われることも珍しくない。
山下さんは「海の男はもっと怖いかと思っていた」と笑う。結婚している伊瀬さんはともかく、独身の松本さん、山下さんは大量の野菜を分けてもらい困り果てることも。何かお返しをと考えるが「大体どこも漁師ですから。魚を持っていくわけにはいかないんですよねえ」(松本さん)。
そこで3人が出した結論は一つ。「早く独り立ちすること。それが皆さんへの恩返しだと思います」。地域の期待と自身の大きな夢を胸に、3人は今日も大海原へと船を走らせる。
【写真】山本さん=左から2人目=に仕掛けのアドバイスを受ける山下さん、松本さん、伊瀬さん=左から(奈半利町加領郷)
(平成14年6月29日付朝刊掲載)
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