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「サンゴを見てもらうがよ。沖まで小舟で運んで。面白いと思うぞ。人は来るぞお」
六月半ばのある日。安芸郡奈半利町の漁業関係者や商工会、民間企業、役場職員らが集まり、企画を練っていた。ごめん・なはり線開業後、初の週末となる七月六、七の両日、奈半利沖の消波ブロックに群生しているサンゴの無料見学ツアーを行おうというのだ。
「どうせやるなら四、五百人呼ぼうぜ」。二十人ほど集まった有志の中から威勢のいい声が上がる。「待ち時間には浜で潮干狩りでもやってもらおうか」「松田聖子の『青い珊瑚礁』を駅で流そう」「知事にも見てもらいたいのう」――アイデアはどんどん広がった。
安芸市以東の県東部は、都市機能や交通基盤整備で南国市や香南地域から後れを取ってきた。だから、なはり線への期待は沿線西部とは比較にならないほど大きい。
だが、年間百四十五万人の乗客目標を達成しても赤字となる。レールを守るにはプラスアルファの魅力が必要だ。観光客など一時的な利用客をどれだけ引きつけられるかが鍵となる。しかし、終着駅の奈半利には大きな目玉がない。そのうち列車で来る人はいなくなるのでは――沿線住民の多くはそう心配していた。
その矢先、突然現れたサンゴの群生。専門家は数の多さ、種類の豊富さを絶賛した。しかも海岸からそう離れていない所で、舟の上からのぞき込める。
「いいものがいい時期に見つかった。絶妙のタイミングだったね」
同町のボランティア組織、奈半利自然保護研究会副会長の林田千秋さん(53)はにんまり笑った。
新たな連携誕生
見学ツアーの開催が決まり、スタッフは準備に動き始めた。林田さんは自然や環境問題に目を向けてもらうきっかけに、と考えているし、別の者は遊覧船の営業など新たな産業創出のチャンスと見る。思いは人それぞれだが、大勢の人がこの企画に夢と希望を感じているのは間違いない。
「これだけ多くの人が一緒に何かに取り組むなんて、今までなかった」―林田さんは、鉄道とサンゴがもたらした人のつながりを単発で終わらせるつもりはない。「鉄道は町を売る大チャンス。この後も地域のためになることは、何でもやっていきたいねえ」
鉄道を利用した活性化の取り組みは各地で起こっている。田野町では、町並み保存グループ「田野まちづくり塾・衆」のメンバーが急きょ、駅前に町の見どころをPRする大きな観光案内地図を作ることを決めた。
田野駅は両隣の奈半利、安田両駅のように物産店などの施設はない。「通過駅で終わらせたくない」と考えていたメンバーは皆やる気満々で、塾長の柴原誠一さん(52)は「突貫作業ですが、何とか開業に花を添えたい」と笑顔を見せる。
行政も手をこまぬいているわけではない。北川村は「モネの庭」と奈半利駅との接続強化を目指し、村営バスの乗り入れ便を設定したほか、タクシーの待機などを検討。安田町は安田、唐浜両駅の駐車場を無料で開放する。
県東部活性化の切り札とも言われるなはり線。どれほどの経済効果をもたらすかは、ふたを開けるまで分からない。だが、地域の人々の町おこしへの意欲に火をつけたのは確かだ。
【写真】奈半利川に架かる鉄橋を行く列車。県東部活性化への期待は大きい
(平成14年6月22日付朝刊掲載)
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