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雨の夜だった。強く怒った声が、稲妻のように脳天にしびれた。
ある夜、私たちは特別な許可を得て、レース前に騎手が寝泊まりする高知競馬場「調整ルーム」に入れてもらった。不正防止のため、レース前夜からレース終了まで閉じこもる「騎手たちの建物」だ。
泥まみれのレースが終わった後、騎手たちは2日目のレースに備え、サウナで減量したり、2人ずつあてがわれる部屋で休んだり、食事をしたりしていた。
ある騎手の部屋に入れてもらった。ちょうど3人の騎手がこたつに入り、出来合いの弁当を食べていた。畳敷きの小さな部屋。「こんちは」と入って座ると、雑談になった。
「競馬場に人が少ない」「1人でもええから来て、見てほしいのよ。おもしれえからよ」「そうよ。中央競馬じゃむちの音聞こえないんじゃけ」――。
そこまではのどかだった。1人、2人と騎手が集まってきて、場の空気が変わってきた。ちょっとずつ早口になってきた。
「僕らの言うことら、ひとっつも通らんけ」
1人が口火を切った。怒りの声だった。やがてむちで追い込むように、みんなが口々に言いだした。
その日は写真を撮って帰る心積もりだったが、帰れなくなった。朗らかな騎手たちが、疲れている騎手たちが、「言わずにはおれない」という強い調子で、言葉を浴びせてきた。
騎手たちの生活費になる「賞典奨励費」が、昨年度に比べ総額約4億円引き下げられた。「もうやっていけん」。落ち込みは、騎手や厩務(きゅうむ)員、調教師ら仕事師たちを打ちのめした。
「こんな金額じゃ、馬主さんが馬を入れてくれんなる。あとは減るだけ。騎手も1人去り、2人去りになるやろ。競馬がどんどん駄目になる。悪循環や」
1人の騎手が、意を決したように言う。
「みんなが痛むのだったら分かる。ところが労働組合には負けるんや」
月給10万円を切る若手が相づちを打った。
「組合のあるおばちゃんの賃に負ける。おばちゃんらあは、ようやってくれゆう。けんど競馬は馬走ってなんぼじゃろが」
有名騎手がぽつり、「大げさやと思うかもしれんけど」と続けた。
「はっきり言います。僕らは毎レース、命を張って走ってます」
周りの若手が声をそろえて、叫んだ。
「大げさやない!! 大げさやない!! 僕ら命張ってやりゆうき。いつ死ぬか分からんに」
騎手たちのいら立ちは、過去の行政の怠慢、「ざるのように収益をまき散らした経営」に向けられた。
「むちゃくちゃやないですか。無駄ばっかりで。なんで僕らが、最前線の僕らあが押し付けられなあ、いかんのですか」
「負債80億円」という短い表現で片付けられる悔しさも吐き出した。
「みんな、競馬場は、高知県の不良債権ぐらいにしか思ってないんじゃ」
「ちゃんと経営してれば、市民、県民が潤う競馬場になったんじゃ!!」
「なんで馬で食っとる僕らが、ばかにされなあ、いかんのじゃあ」
もう我慢ならないという、強い声だった。
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存亡の瀬戸際に立っている競馬場の、追い詰められた仕事師が、今、土壇場の声を発している。
押しつぶされそうな現場と、周縁を歩いた。
【写真】泥をはね上げる雨中のレース。落馬すれば命取り(高知競馬場)
(平成14年12月16日付夕刊掲載)
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