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「高知競馬」という仕事
     =第2部= 怒れる仕事師
 【1】

 なんで僕らあが…  ――騎手たち「命張ってやりゆうき」

 雨の夜だった。強く怒った声が、稲妻のように脳天にしびれた。

 ある夜、私たちは特別な許可を得て、レース前に騎手が寝泊まりする高知競馬場「調整ルーム」に入れてもらった。不正防止のため、レース前夜からレース終了まで閉じこもる「騎手たちの建物」だ。

 泥まみれのレースが終わった後、騎手たちは2日目のレースに備え、サウナで減量したり、2人ずつあてがわれる部屋で休んだり、食事をしたりしていた。

 ある騎手の部屋に入れてもらった。ちょうど3人の騎手がこたつに入り、出来合いの弁当を食べていた。畳敷きの小さな部屋。「こんちは」と入って座ると、雑談になった。

泥をはね上げる雨中のレース。落馬すれば命取り(高知競馬場)  「競馬場に人が少ない」「1人でもええから来て、見てほしいのよ。おもしれえからよ」「そうよ。中央競馬じゃむちの音聞こえないんじゃけ」――。

 そこまではのどかだった。1人、2人と騎手が集まってきて、場の空気が変わってきた。ちょっとずつ早口になってきた。

 「僕らの言うことら、ひとっつも通らんけ」

 1人が口火を切った。怒りの声だった。やがてむちで追い込むように、みんなが口々に言いだした。

 その日は写真を撮って帰る心積もりだったが、帰れなくなった。朗らかな騎手たちが、疲れている騎手たちが、「言わずにはおれない」という強い調子で、言葉を浴びせてきた。

 騎手たちの生活費になる「賞典奨励費」が、昨年度に比べ総額約4億円引き下げられた。「もうやっていけん」。落ち込みは、騎手や厩務(きゅうむ)員、調教師ら仕事師たちを打ちのめした。

 「こんな金額じゃ、馬主さんが馬を入れてくれんなる。あとは減るだけ。騎手も1人去り、2人去りになるやろ。競馬がどんどん駄目になる。悪循環や」

 1人の騎手が、意を決したように言う。

 「みんなが痛むのだったら分かる。ところが労働組合には負けるんや」

 月給10万円を切る若手が相づちを打った。

 「組合のあるおばちゃんの賃に負ける。おばちゃんらあは、ようやってくれゆう。けんど競馬は馬走ってなんぼじゃろが」

 有名騎手がぽつり、「大げさやと思うかもしれんけど」と続けた。

 「はっきり言います。僕らは毎レース、命を張って走ってます」

 周りの若手が声をそろえて、叫んだ。

 「大げさやない!! 大げさやない!! 僕ら命張ってやりゆうき。いつ死ぬか分からんに」

 騎手たちのいら立ちは、過去の行政の怠慢、「ざるのように収益をまき散らした経営」に向けられた。

 「むちゃくちゃやないですか。無駄ばっかりで。なんで僕らが、最前線の僕らあが押し付けられなあ、いかんのですか」

 「負債80億円」という短い表現で片付けられる悔しさも吐き出した。

 「みんな、競馬場は、高知県の不良債権ぐらいにしか思ってないんじゃ」

 「ちゃんと経営してれば、市民、県民が潤う競馬場になったんじゃ!!」

 「なんで馬で食っとる僕らが、ばかにされなあ、いかんのじゃあ」

 もう我慢ならないという、強い声だった。

   □────□

 存亡の瀬戸際に立っている競馬場の、追い詰められた仕事師が、今、土壇場の声を発している。

 押しつぶされそうな現場と、周縁を歩いた。

 【写真】泥をはね上げる雨中のレース。落馬すれば命取り(高知競馬場)

平成14年12月16日付夕刊掲載


【続き】

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