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「オグリキャップ記念」は残り一千メートル。二頭に挟まれ、ずっと身動きの取れなかったエイシンドーサンがやっと自由になった。
「ここで出るしかない。よし、行け!」。北野真弘騎手(32)はドーサンにひとむち浴びせ、ずっと抑えたままだった手綱を緩めた。
手応えはいい。不利を脱したドーサンが指示に応えてじわじわ上がっていく。少しずつ前との差が詰まる。中団グループが目前に迫ってきた。
三コーナーに差し掛かり、残り四百メートル。「間に合ってくれ…」。手綱をぐいぐい押すようにしてスパートをかける。ドーサンは首をぐっと沈めて最後の追い込み態勢。ぐんぐん差が詰まる。一頭を抜き去った。
四コーナーから最後の直線へ。「うお――!!」。八千人の大歓声がさらに大きくなった。
「もう必死。手綱を押して、押して。ずっと押しっぱなし!」。北野騎手はドーサンに何発もむちを入れ、懸命に前を追った。ドーサンはぐんぐん伸びた。また一頭かわした。
残り百メートル。先頭では中央競馬のアルアランと笠松のミツアキサイレンスが競っていた。届く位置ではないが、北野騎手は追い続けた。ドーサンと一緒にぐいぐい迫った。
しかし、ばて気味に下がってくる二頭を目前にしたところでゴール。レースはアルアランがレコードタイムで一着、二着はミツアキサイレンス。ドーサンは賞金圏内に一頭及ばない「六着」だった。
「あんまり後ろ過ぎた。前半の『ポケット』さえなかったら、もっとやれた…」
装鞍(そうあん)所に戻ってきた北野騎手は悔しそうに馬を下りた。まだ息の荒いドーサンに、厩務(きゅうむ)員の桑名政男さん(53)が駆け寄って鞍(くら)を外す。
「無事で何より。上等、上等。けんど、惜しかったねや。もうひとつやったに…。動くに動けんかったもんねや」
調教師の竹内昭利さん(46)も、桑名さんも、なぜか笑っている。
「最後に伸びたのはドーサンだけやったでー!」
ドーサンの馬体は水を掛けたように汗が光っている。ゴーグルを外した北野騎手の顔も汗でびっしょり。
「祭り」が終わった。
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「あのー、サインください…」。レース後、北野騎手は地元ファンにサインをせがまれた。「僕のこと知っちょってサイン欲しかったんやろか。どっちにしたって、うれしいですけどね」。北野騎手は慌ただしく身支度を済ませ、その日の飛行機で高知に帰った。
日の暮れた午後八時。ドーサンは再びきれいに体を洗われて馬運車に乗り込んだ。疲れているのか、あまり動きがない。どこかしょんぼりしているように見えた。
助手席に乗り込みながら、竹内さんが言う。
「岡山の牧場で一頭、一緒に連れて帰るき、高知に着くのは明日の朝四時ごろやねー。着いたらすぐにほかの馬の攻め馬をせんといかん。馬主さんも『どんけつと思ったのによくやってくれた』と言うてくれたし、ドーサン、しばらくレース休ますわー」
ドーサンを載せた馬運車は、再び夜道をゆっくりと走りだした。
【写真】心なしかしょんぼり、とぼとぼと馬運車に乗り込むエイシンドーサン(岐阜県笠松競馬場の厩舎団地)
(平成14年5月29日付夕刊掲載)
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