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「高知競馬」という仕事
     =第1部= 「オグリ記念」に挑む
 【11】

 ゲートが開いた  ――騎手「いかん、ポケットや!」

 エイシンドーサンの調教師、竹内昭利さん(46)は騎手学校で教官からこう教わった。「馬はどこで乗るか。腕力じゃない。頭で乗るんだ」

 以来、竹内さんはずっとこの言葉を忘れずにレースに挑んできた。

坂道を上ってくる地元最強馬ミツアキサイレンス(岐阜県笠松競馬場)  「競馬は何があるか分からん。全然人気のない馬が勝つことやちある。けんど、乗り役が『この馬は勝てん』と思うたら勝てん。どう乗ったら勝てるか。馬を信じて、頭の中でいろんな計算を立てる」

 「オグリキャップ記念」の距離は二千五百メートル。笠松競馬場のコースを二周走る。二分四十秒台の攻防だ。

 「たった一、二分で終わるレースでも、騎手はどうやったら勝つか、着順が上がるか、必死で考えながら乗っている。考えて、考えて、とっさに判断して。思った通りに乗れたら一着。それができるかどうかなんよ」

   □────□

 八千人のファンが待ち構える中、重賞ファンファーレが鳴り響く。係員に引かれて各馬ゲートに入る。ドーサンは落ち着いている。一瞬、場内はしーんとした。

 「スタートしました!」。ゲートが開き、実況アナウンサーの声が響いた。ドーサンは他の馬より一歩遅れて走り出した。「いっつもこんな馬。だから追い込み勝負になる」と竹内さん。十頭が少しずつばらけていき、徐々に縦長の隊列になった。

 先頭は中央競馬の馬アルアラン。本命馬ミツアキサイレンスは三番手、ドーサンは後ろから二、三番手で追走する。予定通り、後方待機だ。

 最初の一、二コーナーはやや遅いペースで回った。アルアランの後を疾走する馬たち。縦長の隊列がさらに長くなっていく。

 ドーサンは後ろから二、三番手のまま。「思うたより遅い感じやな。もうちょっと速うならんかな…」。北野騎手は、そう思いながらドーサンの手綱を絞ったという。隊列が落ち着いたところで、前と横に二頭の馬が寄ってきた。

 「いかん、ポケットや!」。周囲の馬に挟まれて動けない状態を「ポケット」と呼ぶ。位置取りを変えようにも動くことができない。「どっちか動いてくれんと、まずいぞ…」。そう思いながら追走する北野騎手。それでも、ドーサンは落ち着いて走っている。

 そのままほぼ一周。残りあと一千四百メートル。スタンド前の直線をひた走る馬たちに「うおーっ!」と、うねるような歓声がかぶさる。

 二周目。先頭のアルアランが徐々にペースを上げてきた。ミツアキも付いていく。レースの流れはかなり速くなった。先行、中団、後方グループ。それぞれの隊列がちぎれるように離れ始めた。

 「こっちも上がっていかんと届かんなるぞ」。二頭に挟まれ、ドーサンはまだ身動きが取れない。「ちった、動いてくれんろか。動け、動け…」。ドーサンの手綱を絞ったまま、いらつく北野騎手。隊列はどんどん伸びて、先頭からしんがりまで十三馬身ほどになった。

 残り一千メートル。ハイペースに付いていけないのか、横の馬がじりじりと後ろに下がった。

 やっと、すき間が開いた。

 【写真】コースを疾走するエイシンドーサン。北野騎手がむちを入れた(岐阜県笠松競馬場)

平成14年5月28日付夕刊掲載


【続き】

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