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昨年十一月、高知競馬場重賞レース「珊瑚(さんご)冠賞」。「エイシンドーサン」という栗毛(くりげ)の牡馬が、前かがみの馬体を弾ませて差してきた。
砂が深い高知競馬場の最後の直線は約二百メートル。先行して逃げる馬には有利で、後方から追い込んでくる馬には不利なコースといわれる。
ところが高知で二レース目というその馬は、「届くまい」という最後尾からあっという間に差してきて、ラスト二百メートルの直線で、高知の有名馬をごぼう抜きした。
「あの位置から届いた脚は初めて見た。なんで高知に来たんやろ」。調教師の竹内昭利さん(46)=高知市瀬戸南町一丁目=は目をむいた。
高知競馬のようなローカル競馬には、かつて中央競馬で活躍した馬たちが流れてくる。
たいていはけがをしたり、年老いて弱くなったりして引き取られる。ダービーや菊花賞で活躍した馬たちも走っている。多くは竹内さんのような調教師や厩(きゅう)務員たちが体の故障を治し、「走り屋」として再生した馬たちだ。
その点、エイシンドーサンはけがをしていたわけではない。中央競馬では武豊も騎乗したが、二十五戦で三勝。大した馬ではないはずだ。
その馬が、誰も見たこともないような脚で連戦連勝。走るときは少々わがままだが、普段は物静かで頭もいい。
「なんでこんな馬が流れてきたんかなあ。多分、中央じゃ序盤のハイペースに付いていけなかったんだろうね。高知の場合はスローで回ってきて、じっくり脚をためて、最後の脚で『よーいどん』。こうなるとめちゃめちゃ強い馬だよ」
ローカル競馬場の廃止が相次ぐ中、高知競馬も不振のトンネルでもがき、生き残れるかどうかの瀬戸際に立っている。累積赤字は七十億円を突破。「しょせんばくち。稼がないのならつぶせ」の声が出始めている。
しかし単なる「金勘定」で語られることに、現場の仕事師たちは我慢がならない。
高知競馬では約一千人が働いている。つまり、数千人の生活がかかっている。
ここまで経営悪化が進んだのは、彼らの責任ではない。赤字の七十億円は、見方を変えれば競馬場移転で生じた建設費の金利分だ。行政が甘い経営を続け、馬や仕事師たちにさまざまな矛盾を押しつけてきた結果の七十億なのだと、現場の声なき声がある。
四月末。竹内さんは、「久々に出会った強い馬」を連れて、岐阜県笠松競馬場へ旅に出た。地方競馬のビッグレース「オグリキャップ記念」に挑むのだ。
「もうこっちから打って出る。わしら瀬戸際やもん。だって稼がにゃならんもん」
午前二時。馬と人が暮らす厩舎に、岐阜行きの馬運車に乗り込んでいくエイシンドーサンの、おわんをたたくようなひづめの音がポッコポコと響いている。
悩みの深いこの競馬場に、明るいニュースを運んでほしい。ドーサンの追い込み脚は高知競馬の人たちの、そんな期待もしょっている。
「しゅっぱーつ。ひと泡吹かせるで」
【写真】「オグリキャップ記念」へ出発するエイシンドーサン(高知市長浜の高知競馬場厩舎)
(平成14年5月16日付夕刊掲載)
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