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不安と期待、笑顔…
平成九年から山村留学制度に取り組んできた安芸郡馬路村の魚梁瀬小中学校のPTA(山崎出会長)は昨年十一月、「日本PTA全国協議会」の会長表彰を受けた。
同村魚梁瀬の多目的施設で開かれた祝賀会で、和やかに酒を酌み交わす住民の中に藤井敏雄さん(35)の姿があった。
藤井さんは勤めていた旅行会社を辞め、山村留学制度を利用して昨年三月、大阪市から家族四人で引っ越してきた。
藤井さんには六歳と一歳の子どもがいる。「子どもは学習障害があると診断され、外で遊ばせたくても一人では出せない。大阪では、家の中でビデオを見せる毎日だった。自然に囲まれた田舎で子育てをしたい」と応募した。
共働きの家庭が多い魚梁瀬では、母親同士が子育てのことを話し合う機会は少なくなりがちで、都会のような専門的なカウンセラーもいない。地区の「出役」など村のルールもある。
当然、都会から来ればそのギャップに戸惑う。「子どもが小さいと行事の手伝いができないことがあるし、パートをしたいと思っても働く場所がなくて」と妻の由樹子さん(36)。
現在、藤井さんは地元の建設会社で慣れない仕事に汗を流している。「今年は上の子が小学生になる。末永くここにいるつもりです。もっと地元の人たちとかかわりを持ち、自分たちのことを知ってもらいたい」。魚梁瀬に来て十カ月、藤井さん一家は期待と不安を抱えながら魚梁瀬で初めて正月を迎えた。
北野千晴さん(38)は魚梁瀬小・中学校に隣接する村営住宅で六年生の晴香さん(11)、基弥君(5つ)と暮らしている。夫が転勤族ということもあり、一年半前に母子で魚梁瀬にやって来た。
「うちは“出戻り”なんです。晴香が四年生の時に一年間魚梁瀬でお世話になり、ほかの学校に転校したんですが、ここの良さが忘れられなくて」
魚梁瀬に戻ろう
幼いころ北国で伸び伸びと育った晴香さんは、父親の仕事の都合もあり転校を繰り返した。大半の学校の子どもたちは塾や習い事に忙しく、放課後、学校で遊ぶ子どもはほとんどいなかった。
授業が終わると、学校は教室にかぎを掛ける。下校時間が遅れると、「塾があるので早く帰してください」と父母から苦情がくるからだ。
「学校以外の場所が子どもたちの生活の中心になっていて、教室はいつも静まりかえっていた。その環境にうちの子はなじめなかった」
五年生の一学期だけ通った県外の学校もそうだった。「スクールカウンセラーの先生にも相談したんですが、朝起きるとおなかが痛くなって、もう勉強ができる状態じゃなくなった」
北野さんは「この子のサインだ。魚梁瀬に戻ろう」と決心した。
五年生の夏、晴香さんは魚梁瀬小の水泳の強化練習に参加した。ほとんど泳げなかったのが、二、三日たつと百メートルを泳ぎ切った。暗い顔をしていた晴香さんに明るい笑顔が戻った。
「こんな楽しいとこはないね。ここは弱点がある子が来たら、すごく元気になれるとこやね」
魚梁瀬小の全校児童は十六人。六年生は晴香さんだけだ。「寂しくないか」と尋ねると、「一年から六年まで全員で遊ぶし、ぜーんぜーん。みんなに役割があって、なんか人のためになっているというか、一人じゃない気がする」。
いま県内で、「学校が楽しくてたまらない」と言える子どもがどれだけいるだろうか。へき地にある小規模校の特性をどう生かすか。魚梁瀬の山村留学制度には、少子化時代の学校や地域の抱える課題と展望が凝縮されている。
【写真】全国表彰を受けた魚梁瀬小中学校のPTAの祝賀会。和やかな雰囲気の中、山村留学の家族も一緒に酒を酌み交わす(安芸郡馬路村魚梁瀬)
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