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68万人社会に挑む
 第2部「ユズの村の戦略」(6)

14 魚梁瀬の危機感
続き

「学校がのうなるぞ」

 一千メートル級の山に囲まれた安芸郡馬路村の魚梁瀬地区。魚梁瀬ダム湖畔の丸山台地に百四十五世帯、三百十二人が暮らしている。同村の人口は一千二百人ほどだから、約三割がこの集落に住んでいることになる。

300人余が住む安芸郡馬路村の魚梁瀬地区。過疎化への危機感から山村留学制度を導入し、成果を挙げている  集落の一角には、魚梁瀬営林署(現安芸森林管理署魚梁瀬事務所)がある。同署の歴代署長は大半がキャリア組。林業最盛期には署長経験者が林野庁長官になるなど、村内では「もう一人の村長」と称され、大きな影響力を持っていた。

 魚梁瀬では、地域の小中学生の約半数を営林署関係の子弟が占めている。このため署員の異動時期には、「家族で赴任してくれる職員を」との地域の要望を、営林署も一定考慮し対応する―ことが暗黙の了解になっていた。

 ところが林野事業の合理化政策で状況が一変。署員の段階的削減に加え、平成八年ごろから二家族が一度に転勤するなど、それまでほとんど見られなかった人事が目立ってきた。

 このため八年度の魚梁瀬小中の児童生徒は前年度から五人減の二十五人になり、九年度の新入学児はついにゼロに。このままの傾向が続くと、十六年度には中学生が一人になると想定された。

 山村留学を導入

 「複式、複々式どころやない。営林署の異動に頼りきっちょったら、学校がのうなる。その次は地域がのうなるぞ。学校を守るには、もう外から子どもを呼んでくるしかない」

 八年十二月、危機感を募らせた当時の魚梁瀬中の久保茂行校長(53)=現田野中校長=と山崎雅朗地区長(65)、地元の湯浅雅文さん(50)の三人が急きょ打開策を検討した。

 二週間後には地域に呼び掛けて発起人会を立ち上げ、九年一月、山崎地区長を会長とする「山の学校留学制度」推進委員会が発足した。事務局は中学校の小松博彦教頭(43)が引き受けた。

 小松教頭は全国の学校を当たった。だが留学制度を取り入れている学校はごくわずか。中山間地域の大半の小規模校で統廃合が進み、過疎化に拍車が掛かっている実態が見えてきた。

 「調べれば調べるほど、がく然とした。うちの学校だけは統廃合にならんようにせんといかん。もう夢中やった」

 当初、推進委員会は子どもだけを受け入れる里親制度を検討した。だが過疎化が進む魚梁瀬では、里親を引き受けてくれる人も少ない。結局、留学を希望する家族も一緒に受け入れる「魚梁瀬式の留学制度」を導入することにした。

 家族を受け入れるとなると、まず住む家がいる。地区内の空き家などに目星を付け、住民総出で家屋を補修した。

 「一人でも多くの家族に来てもらいたい」。手弁当で屋根やひさし、直せる所はすべて直した。

 九年度末には魚梁瀬保育所も受け入れ施設に加わり、保・小・中の態勢が整い、沖縄、愛媛などから六家族(二十二人)が地域に住み始めた。

 さらに、十年度には留学家族が十世帯三十七人になった。うち児童生徒は十四人で、地区内の全児童生徒に占める留学生の割合は四割を超えた。

 村教委も小学校の校舎を全面改築する方針を固め、追い風が吹き始めた。「これで魚梁瀬は生き残れるかもしれん」。住民はひとまず胸をなで下ろした。

 ちょうどそのころ、林野庁の営林署再編案が発表された。「魚梁瀬営林署が安芸に統合される。国有林の村から営林署がのうなる」。だれもが耳を疑った。馬路村に激震が走った…。

 【写真】300人余が住む安芸郡馬路村の魚梁瀬地区。過疎化への危機感から山村留学制度を導入し、成果を挙げている


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