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68万人社会に挑む
 第2部「ユズの村の戦略」(5)

13 膨らむ夢
続き

村ごと有機認証取得へ

 昨年一年間に、全国各地から安芸郡馬路村を訪れた視察団は三百団体を超えた。また、コミュニティーセンター馬路(馬路温泉)の十二年四月から十一月末までの宿泊者数は五千八百三十四人に達し、昭和五十四年の開館以来、最高のにぎわいを記録した。

32万人余の顧客情報を管理する馬路村農協。繁忙期には注文が殺到する(同村馬路のユズ加工場) 一方、馬路村農協のユズ加工場では、十三人のオペレーターがひっきりなしに注文を受けていた。多い日には一人が百八十本余の電話に応対したことも。忙しい、人が足りない…。

 顧客のネット化

 「視察対応に明け暮れた一年やった。村に来てもらえるのはうれしいが、ユズの事業はよう進ませんかった」。村農協の東谷望史生産加工課長(48)は口惜しそうに話す。

 実は、村農協にはかねて具体化させたいと思っていた事業があった。

 その一つが、インターネットを使った通信販売。大手メーカーに頼らず、田舎ならではの情報戦略と独自の販売ルートで、開拓した顧客は三十二万人を超える。この情報を整理し直して、全国の「馬路村応援団」の端末と農協の情報機器をつなぐことで、即座に注文を受けるシステムを年内に具体化させる予定だ。

 「ユズの有機農産物の認定を村ごと取りたい」という夢もある。

 これまでの村農協の取り組みは、一次(生産)、二次(加工)、三次(販売)を足し合わせた「六次産業」と称される。加工し売ることから、原点である生産部門にもう一度立ち返り、もっと充実させることで、顧客の安全・健康志向にこたえていこうというのだ。

 昨年、隣の北川村で自然農法のユズ生産組合が改正JAS(日本農林規格)法による認定を受けたことも刺激になった。

 三年間、化学肥料、農薬を使わない―それが認定の最低条件だ。村のユズは無農薬だが、肥料は使っている。まず肥料を鶏ふんなどの有機質にすべて変えなくてはいけない。ユズ畑の隣に、農薬を使っている野菜畑があってもだめだという。とすると、農家の畑という畑に全部手をつけなくてはならなくなる。大変な作業だ。

 だが、東谷課長は「しんどいけんど面白いろう。けんど考えてみてや。これが将来の日本の農業の姿やないろうか。そうは思わんかえ」。まるで子どものような目をする。不思議な人だ。

 村農協のユズ加工場の前には、村の子どものイメージをデザイン化した「ごっくん坊や」の看板がある。

 「うちのCMは少子化対策でやったわけでも何でもない。全国の農村から子どもの声が聞こえなくなっていく状況の中で、馬路にはこんなに元気な子どもがおると言いたかった」

 そして、「子どものことで忘れられんことがある」と二十年以上前の話をしてくれた。東谷課長が青年団員だったころ、魚梁瀬地区の若者とよく話をした。

 「村の子が減ってきたし、魚梁瀬の学校を馬路の学校に統合したらどうやろう」。若者は「嫌や! そうなったら、もう村にはようおらん。安芸へ出ていく」と強い口調で答えた。

 「小学校がなくなったら、若い人が地域で子育てをせんなる。魚梁瀬には危機感がある」。東谷課長は二度と学校統合の話を口にすることはなかった。

 ユズ産業が急成長する一方で、木材不況による国有林の合理化は加速度的に進んだ。魚梁瀬の若者の危ぐが現実のものになろうとしていた。

 【写真】32万人余の顧客情報を管理する馬路村農協。繁忙期には注文が殺到する(同村馬路のユズ加工場)


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