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湧くわく深層水【6】
 第1部  騒ぎの周辺 

ここがうわさの室戸です (3)
続き

海沿いに「塩の道」

 「なめてみいや、結構甘いぜ…」

 潮風が当たる海道沿いの敷地。ぐつぐつ煮立つ大きな釜(かま)の中。もうもうと上がる湯気の中に、白い塩の結晶ができてきた。

煮上がった深層水の塩。「けんどうない」と干物屋さんも認める味(室戸市室戸岬町の室戸海洋深層水)  室戸市室戸岬町で深層水の塩をつくっている「室戸海洋深層水株式会社」。

 敷地のわきには大きな木造の建物。ここへ深層水をパイプでくみあげ、何度も何度もまき散らしながら流れ落とし、塩分を濃くしていく。

 濃くなった塩水は、釜で煮詰めて塩になる。ビニールハウス風の建物内で蒸発させる天日塩もある。長い長い地道な作業。

 海辺の敷地はなかなかの活気だ。視察に来る人、出入りの業者…。

 「売れゆうぜ」。陽気な、だみ声の社長さん。

   □  ■

 塩はずっと、勝手につくることができなかった。日露戦争の財政をまかなうため一九〇五年に導入された専売法のためだ。戦後も同じ。国から委託されたJT(日本たばこ産業)指定の七業者がつくった。

 この塩の成分が問題視されるようになったのは一九七一年から。それまでは海水を煮詰めてつくっていた塩が、イオン交換膜製塩法で安価に生産する方式へ全面転換したからだ。

 電気で分子を動かし、分子が移動するのを利用して膜で通すこの方式は、塩化ナトリウム九九%以上の純度の濃い塩をつくる。

 「つまり、ミネラル分がない塩。ただの化学物質ですよ。日本人はその時から、豊富なミネラルを摂取できなくなった」

 こう話すのは、国がつくる塩に反発、二十七歳で伊豆大島(東京都大島町)に渡って「実験研究」の名目で自然塩をつくり続けた阪本章裕さん(51)。

 「『敵に塩を贈る』とことわざで言われる塩。動物がなめにくる塩。そんな体にいい塩と、日本人が与えられた塩は別物。成人病とこの塩が、全く無関係とは言えないはずだ」と指摘する。

   □  ■

 塩の製造が自由化されたのは一九九七年。「室戸海洋深層水」社長の田本久さん(59)はその翌年、「深層水そのものを形にしたい」と目をつけた。

 元室戸市役所職員。ホエールウオッチング用の大型船の購入を当時の市長に提言したが、かなわなかった。で、「それなら好きなことをやる」。

 その後阪本さんと、知人の紹介で知り合った。「力を貸してほしい」と頼み、会社の製塩プラントを一緒に立ち上げた。阪本さんと伊豆大島で塩をつくっていた住田守人さん(47)も三年前、仲間に入ってきた。

 「深層水の塩は、伊豆大島でつくっていた塩よりまろやか。リン酸塩、ケイ酸塩、硝酸塩が多いせいか。気に入っているんです、この味」

   □  ■

 「けんどうない(きつくない)。とがった味がせんということ」

 室戸岬町の干物屋さんにやってきた。遠洋マグロ船の元漁労長だった中内純祐さん(64)が長方形のおけに深層水を張った。そこに、さばいたばかりのキンメダイを入れていく。

 「キンメダイはとっと深いとこにおる。その水でつける。味? えい。今までと勝負にならん」

 一方、この干物屋の社長さんの出間精一郎さん(50)が作業の手を止めて、はるか遠くを見る目。ひいじいさんは鯨捕り。父親は遠洋マグロ船に乗っていた。

 「室戸ってのは打たれても打たれてもはい上がってくる町でね。鯨がいかん、マグロがいかん。でもきっと次がある。次はね、塩かもしれんぜえ」

   □  ■

 吸い込まれそうな藍色が広がる海沿いの道。深層水を載せたトラックが行き交う。

 三津の「県海洋深層水研究所」では実験用で余った深層水百トンを五年前から分水している。この水で商品開発をしているのは県内外の計六十社。

 製塩、飲料水、菓子、干物…。業者の多くがこの海水にひかれている。トラックのタンクからこぼれた塩水が点々…。「ソルトロード」。室戸に「塩の道」ができた。

深層水取材班

 【写真】煮上がった深層水の塩。「けんどうない」と干物屋さんも認める味(室戸市室戸岬町の室戸海洋深層水)


【続き】

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