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語る夏語らない夏 <5> 続き

沖縄戦(下)  書きつづられた体験

見たままありのまま
 六月十四日「『日本ももうだめだ…』と分隊長がぼやき始めた。沖縄の落ちるときは、日本の敗れるときである。祖国はわれわれを絶対に見殺しにするはずはない。いまに来る! しかし、この沖縄に注がれた援助が、すべて、特攻戦法以外になかったことを思えば、無敵と教えられ、必勝を信じてきた日本も、ついに力つきたの感がしてならない」(中略)

じっと目をつむり、当時の悲惨な体験を思い出す野村さん(高知市神田)  野村正起さん(78)=高知市神田=の手記「沖縄戦敗兵日記」が出版されたのは昭和四十九年。戦地での日記を基に、投稿した手記が戦争シリーズ本の一つに採用された。

 終戦から二十年以上が過ぎて手記を書こうと思い立ったのは、二つの思いからだった。当時は太平洋戦争の戦記や手記が盛んに出版されていたが、「単に反戦的で大衆受けするものが多かった。沖縄戦の日時や場所がつじつま合わせだったり、明らかに事実と違う記録も目に付いた。都合ように書いちょった」。

 もう一つ。「自分の生きた証(あかし)として。壕(ごう)に手りゅう弾を投げ込まれ、生き埋めになった仲間を置き去りにして逃げた。障害者の島民をスパイと間違え、拷(ごう)問した。逃げる途中、民家の明かりを見つけたが『お前たちが来たから沖縄はこんなことになったんだ!』と追い払われた。腹が減り、集落で飼われていた豚を殺して食べた。必死やったが、ざんげしたい気持ちもある。体験したままを書きたい」

 刊行された本を最後まで一緒に逃げた和歌山の戦友に送った。復員後は年賀状のやりとりだけの付き合いだったが「ありのままが面白くなかったんでしょう」。年賀状は来なくなった。

 野村さんはその後、所属していた陸軍第三十二軍船舶工兵第二十六連隊の作戦や行動の詳細な記録をまとめることにした。防衛庁の記録を調べ、生き残った戦友への聞き取りもした。

 「所在の分かった五十人ほどに手紙を書いたり電話した。既に他界していた人、快く応じた人、『もう、その話はしたくない。こらえてくれ』と言う人。いろいろやった。捕虜になったことをまだ恥に思っている人もいた。あれから三十年以上も経っていたのに…」。ほぼ十年がかりでまとめた記録は、二年前に「船工26の沖縄戦」(亜細亜書房)の題で自費出版した。

 ほかにも原稿を書いた。投降後、約四カ月間の収容所生活をつづった「私の沖縄捕虜記」、敗戦で意気消沈した人々や空襲に遭った高知市の様子などを書いた「回想のわが復員」、終戦直後、復員者を報じたラジオ放送を手掛かりに、同じ隊にいた戦友の遺族から届いた手紙をまとめた「船工26遺族の声」。

 だが、これらの原稿は野村さんの引き出しの中にしまわれたままである。「せめて『船工26遺族の声』は何とか本にしたいが…」

 戦友の家族へ、野村さんは知っている限りのことを返事に書いている。「たこつぼ(一人用のざん壕)に手りゅう弾を投げ込まれ、吹き飛んでしまった友。仮眠中、腹に艦砲の破片が突き刺さり即死した友。銃撃を受け、顔に穴が開いて死んだ友。「実際に戦死した場所が通知と違っていた人もいた。つらかったが、見たままを伝えました」

 場所や日時も覚えている限り詳しく伝えた。そのことで遺族が現地に出向き、遺骨が収集できたケースもある。「言うてよかった。書いてよかった思います」

  ■   □

 ことし、ふと思い立って「沖縄戦敗兵日記」を母校の第四小学校に寄贈した。「当時の体験を子どもたちに話してくれないか」と依頼されたが、さんざん悩んだ揚げ句に断った。

 「私もいずれ消えていく身。それまでにできるだけ伝えたい、話したいと思う。その気持ちはあってもこんな無残な、むごたらしい話をどこまで子どもにしてえいやら」。ありのままを伝えたいという野村さんさえ、悩んでいた。

 【写真】じっと目をつむり、当時の悲惨な体験を思い出す野村さん(高知市神田)


「語る夏 語らない夏」−目次−

<1>中国残留婦人 <2>ニューギニア戦線(上) <3>ニューギニア戦線(下)

<4>沖縄戦(上) <5>沖縄戦(下) <6>長崎被爆者(上)

<7>長崎被爆者(下) <8>高知大空襲(上) <9>高知大空襲(下)

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