|
第十二回「黒潮マンガ大賞」(高知新聞社主催)には、コマ部門に五百三十四点、ストーリー部門に六十九点の作品が集まった。審査はやなせたかし、青柳裕介(両氏は事前審査)、岩本久則、はらたいら、矢野徳の各氏が審査。コマ、ストーリーの両部門とも「絵のレベルは上がっている」と審査員を感心させたが、「個性の出た作品が少ない」との意見も両部門で共通していた。審査経過を振り返りながら、入賞作品に寄せられた審査員の批評をまとめた。
【コマ部門】 高水準も少ない独創性
コマ部門には、二百五十人(県外二百十五人、県内三十五人)から応募があり、岩本、はら、矢野の三氏がやなせ、青柳両氏の事前審査を踏まえ、最終選考を行った。
その結果、大賞争いは京都市の北村いおさん(49)の「修行」、東京都八王子市の山根青鬼さん(64)の「ひと休み」の県外勢に、高知市の岡いくおさん(61)の「お出かけ」が絡む三つどもえの展開になった。
コマ漫画には“お決まり”の題材やひねりがあるが、「ひと休み」は風力発電の大きな羽根が扇風機の小さな羽根を回すという「初めての新鮮さ」(岩本氏)が審査員をうならせた。やなせ氏も題材の選択に加え、ひねりのこっけいさを「とぼけてて面白い」と高く評価した作品だ。
ネコとネズミをテーマにした「お出かけ」は、お父さんネズミが家族のために針のスーツを着て、決死の覚悟で外出する光景をうまく表現。「まとまりすぎている」という意見もあったが、「ちらりと見えるネコの足がいい」(矢野氏)などと好評だった。
これら二点の力作を抑え、大賞に輝いたのは「修行」。これまでも「清流に空き缶」という着想はあったものの、空き缶が行者の上に落ちる描写が笑え、はら氏は「単純でいい。分かりやすい」と“真っ向勝負”した点を絶賛した。
北村さんは昨年も入選しているが、「絵がうまくなったなあ」(岩本氏)と画力の向上も評価のポイントに。これらの要素が「どの作品が大賞を取ってもおかしくない」と審査員が口をそろえた混戦に終止符を打つ格好となり、「ひと休み」は佳作、「お出かけ」は入選に収まった。
残る入選四点のうち、名古屋市の風瀬一人さん(46)の「いただきまぁーす」は、岩本氏が「ナンセンスでいい」と評価。東大阪市の鈴木一朗さん(42)の「望郷」に登場する、ごみの山に立つ縫いぐるみに矢野氏は「切なさを感じた」。
京都市の朴順容さん(23)の「無題」は、やなせ氏が「若いのにうまいなあ」と感心。北九州市のキクチマサフミさん(59)の「謝罪会見」は「頭を下げても、腹の底はこの態度よ」(はら氏)と、読者が納得する笑いで人気を集めた。
審査員は一様に「水準は上がっている」と講評しながらも、「個性的、独創的な作品が少ない」(岩本氏)と指摘。「入選の傾向と対策を心得ている」(矢野氏)作品の多さに対し、はら氏は「安全パイじゃなくて冒険してほしい」と苦言を呈した。
【写真】作品の1点1点にじっくりと目を注ぐ審査員(左から矢野徳さん、岩本久則さん、はらたいらさん=東京・赤坂)
【ストーリー部門】 本県勢健闘 5点入賞
ストーリー部門には六十五人(県外三十九人、県内二十六人)から応募があり、自然をテーマにした作品や、現代の若者の気持ちを代弁する作品、四コマ漫画の連続をストーリー作品とした作品が目立った。
青柳氏が大賞候補に挙げたのは、東京都中央区の相沢拓(ひらく)さん(45)の「新イソップ話 リスとイノシシ」と、高岡郡中土佐町のなかはらしげひろさん(51)の「ミサイルの森」。それぞれ、「絵が抜群にうまい。独特の線で、動物を描ききっている」、「言いたいことを言い切っているし、幻想的に出てくる影絵の使い方がうまい」と講評した。
やなせ氏は「各作品を見て大賞は『新イソップ話―』だと感じた」。岩本、はら、矢野三氏は「『イソップ』はオチにやや難がある」(矢野氏)としながらも、「絵のうまさはずば抜けている」との意見で一致し、相沢さんの大賞受賞が決定。なかはらさんは佳作に落ち着いた。
入選では本県勢が健闘、五点の中に四点が選ばれた。
高知市の松本文雅さん(53)の「風の中で…」は「絵がすごくかわいい。じっくり育てたい作品」と岩本氏。土佐市の仲いづみさん(41)の「リトルハウス」には、矢野氏が「日常の中のちょっとしたエピソードをうまく表現している」と話した。
また、高知市の森本輝美さん(18)の「英雄伝説」は「哲学を語るようなストーリーだが、行間にポエムを感じさせる」(はら氏)、高知市の鮫島猫美さん(35)の「かんじょうせんのおっちゃん」は「おんちゃんに向けた目が優しい。ほろりとくる」(岩本氏)とそれぞれ、高く評価した。
さらに、入選で唯一の県外勢となった愛知県犬山市の丹羽やすしさん(42)の「天国から来たパチンカー」は、「ちょっとくせがある。個性と見るか、くせと見るか…」(はら氏)、「奇妙なおかしさがある」(矢野氏)と意見が分かれながらも、最終的には入選でまとまった。
青柳氏は総評として「粗削りでもいいから、個性を発揮してほしい。絵は描いたらうまくなるが、ストーリーはその人の感性が大切だ。見る側に『何かを持っているな』と感じさせるものを描いてほしい。また、スクリーントーンを使うのもいいが、プロを目指すなら、まず手がきの技を磨くべき」とのコメントを寄せた。
【写真】机の上に作品を並べ選考する、はらたいら、矢野徳、岩本久則の3氏=左から=(東京・赤坂)
|