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【13】実名告発 沈黙は不正への加担

(2005年3月29日・朝刊)

「警察は今こそうみを出し切るべきだ」と語る愛媛県警の仙波敏郎巡査部長(松山市の自宅)  一部の警察署で捜査費不正を認めながら、「ほかにはない」と否定していた愛媛県警に今年1月、裏金疑惑を決定づける激震が走った。

 同県警の現職警察官が、不正経理の実態を実名で告発したのだ。北海道警では元幹部が実名証言したが、警察組織に身を置く現職が実名で内部告発したのは全国で初めてだった。

 

■不正拒む

 「配属された複数の警察署で、電話帳から抽出した名前を領収書に書くよう言われた」「口座が勝手につくられた」「裏金は管理職の飲み代に使われた」――。

 同県警本部地域課の仙波敏郎巡査部長(56)は、書類偽造や水増し請求など裏金づくりの手口を生々しく証言し、長年続いてきた不正経理の実態を浮き彫りにした。

 愛媛県では昨年5月、地元マスコミが捜査費不正を報道。同県警は同9月、大洲署(大洲市)で11―15年度の間に約30万円の不正支出があったことを認めた上で、「ほかの署や本部には不正はなかった」とする調査結果を報告した。

 仙波さんの告発は、県警の“幕引き”報告を根底から覆したのだ。

 巡査部長に昇進した昭和48年ごろから、所属署の上司に領収書の偽造を依頼されるようになった。仙波さんは「防犯と犯人検挙のため警察官になった。犯罪には加担しない」と拒み続けた。

 「正論だが、組織とはそういうものじゃない」と部下に不正を強いる幹部が評価され、出世していく。「みんな最初は戸惑う。しかし、偽造領収書を書かなければ昇任できない。やりたい仕事もできない」。県民のために汗をかく警察官がその裏で組織の不正にのみ込まれていく。やりきれない思いを募らせていた。

 そして県警の裏金疑惑が噴出。旧知の弁護士らに頼まれた。「県警の裏金の実態を公に話してくれないか」。仙波さんに「迷いはなかった」。

 

■きばむく組織

 同県警は仙波さんにきばをむいた。

 告発会見の前夜、幹部に呼ばれた。「やめてくれ」「昇任も考える」「県警は1年間は立ち直れない」。口止めだった。仙波さんは言い返した。「ふたをしたら県警は一生立ち直れない」

 記者会見から4日後、地域課通信指令室へ異動が内示された。報復人事としか映らなかった。県警内の食堂は仙波さんが入った途端静まり返り、冷たい視線を浴びせられた。

 それでも仙波さんは「辞めたいと思ったことはない」。全国からの応援の手紙は400通を超える。「辞めないで」の文字に励まされている。

 仙波さん後に現職の実名証言は続かない。「家族を守るためためらう気持ちは理解できる。しかし、不正を隠すのは幹部と同罪になる」。仙波さんはそう語気を強めた。

 不正行為がまん延した巨大組織の中で、個人の正義感はかき消され、組織は内部告発者を押しつぶそうとする。リコール隠しなど企業や官庁の組織ぐるみの不祥事発覚を受け昨年6月、告発者を守る公益通報者保護法が成立(18年度施行)した。しかし、当の組織に自浄力がなければ法の趣旨は生かされない。

 愛媛県警は、仙波さんが告発した裏金疑惑を認めていない。

 【写真説明】「警察は今こそうみを出し切るべきだ」と語る愛媛県警の仙波敏郎巡査部長(松山市の自宅)

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