【1】発端 「一円も渡っていない」
(2005年3月17日・朝刊)
全国の警察で捜査費の不正が噴き出している。北海道警、福岡、愛媛県警は捜査費執行の誤りを認め、不正支出分を返還するに至った。これまで警察を舞台にした不祥事は数多くあったが、警察官個人の問題ではなく、これほど長年にわたって、しかも大掛かりな警察内部の組織的不正が明るみになったことがあっただろうか。高知県警では15年7月に捜査費疑惑が浮上したが、県警は不正を頑として認めず、内部調査すらしようとしない。一体、県警の捜査費問題とは何だったのか。これまでの経過を振り返り、今後の課題を検証する。 ■呼び出し
15年春のある昼下がり。本紙県警担当記者の携帯電話が鳴った。記者が親しくしている県警の関係者からだった。「茶でも飲まんか」との誘いで、県警本部近くの喫茶店で会うことにした。
向かいに座った関係者は、おもむろに茶封筒を差し出した。中にはB4サイズの3枚の書類が入っており、表題には「捜査費執行状況等一覧表」と書かれていた。
初めて目にする書類だった。本部捜査一課の国費捜査費の執行状況を記したもので、14年4月から同年10月までの7カ月間に、9人の捜査員が計約196万円の捜査費を捜査協力者や飲食店に支払ったことを示した文書だった。
「現場の捜査員には一円も渡っていない」
関係者は衝撃の事実を口にした。絶句する記者に続けてこう言った。「幹部が何かに使っていたんだろう。偽造書類を書かされていた」 ■「恩恵は幹部だけ」
一覧表に書かれているのは捜査員名、事件名、捜査協力者名、金額などだった。9人の捜査員は全員実在する。事件も取材したものばかりだった。捜査協力者は27人。謝金を支払う相手として、「債主」(債権者の意味)という聞き慣れない用語の欄にその氏名が書かれていた。
一覧表について県警は今も「出所不明の文書」とする。しかし、記載された捜査員と担当した事件が一致するなど、内部文書であることは明らかだった。
旧知の捜査員に裏付け取材を始めた。そして「捜査費は不正に使われているのか」という質問をぶつけた。
「自分の立場では言えない」と言う捜査員が多かったが、疑惑を否定した人は一人もいなかった。「現場には金が下りてこない」「恩恵を受けたのは幹部だけ」と不正を認めた捜査員も複数いた。一覧表について「幹部の手持ち資料」と断言した人もいた。
問題は捜査協力者への取材だった。一覧表には「高知市神田」という具合に地名しか記載がなく、番地までは分からない。氏名を基に電話帳で探したが、大半が一覧表の地名と一致しない。よく見ると「高知市潮江町」という実在しない地名さえあった。
必ずといっていいほど同姓同名者がいるのも不可解だった。実数27人の協力者が58人にまで膨れ上がった。記者3人で取材班をつくり、地道に取材することにした。
【写真説明】捜査費不正疑惑を否定し続ける高知県警(高知市丸ノ内2丁目)
(「捜査費問題」取材班)
この連載や捜査費問題についてご意見をお寄せください。〒7808572高知本町局私書箱40号、高知新聞社会部「捜査費問題」取材班。ファクス088・873・8119。Eメールkeisatsu@kochinews.co.jp
|