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ひび割れた虚構

2006年12月5日掲載

 ◆【4】 実態は国家警察

「捜査費問題は警察制度の矛盾が明るみに出た」と指摘する新藤宗幸教授(東京都内)

 千葉大教授 新藤 宗幸氏

 今年2月、県警捜査費の特別監査で一部を違法認定した県監査委員は、裏金づくりを「組織の問題」「幹部の責任」と指弾した。一連の疑惑は警察の抱える組織上の問題を浮き彫りにしている。行政や公務員問題に詳しい千葉大法経学部の新藤宗幸教授(60)に、行政機関としての警察の課題を分析してもらった。

 【写真説明】「捜査費問題は警察制度の矛盾が明るみに出た」と指摘する新藤宗幸教授(東京都内)

 ▼効かない自治

 日本の警察は自治体警察を一応の前提にしているが、実態は全く違う。例えば、高知県警にも国家公務員と地方採用の警察官の2種類の公務員がいる。県警が採用しても警視正以上の幹部は国家公務員になる。

 つまり県警の本部長ら幹部は、警察庁長官と同じ行政機関(警察庁)に属し、知事の指揮下にはないことになる。だから警察庁の意向をくもうとする。実態は国家警察であり、この点で、教育委員会などの組織とは全く性格が異なる。

 また建前として、都道府県の公安委員会が警察を管理することになっている。しかし実際問題として、幹部が国家公務員である組織の全般について、県組織の公安委が実質的な指揮権は発動できない仕組みだ。

 捜査費も知事に執行責任のある県費と、国からくる国費がある。恐らくその両方に同じ問題があるのだろうが、県は国費については調査権限すらないのが実態だ。

 日本の警察はこういう非常に中途半端な構造的問題を抱えている。捜査費問題は公金の使途に関心が高まる中、自治体のコントロールが効かない警察制度の矛盾が明るみに出たのだと思う。

 ▼民主主義の否定

 裏金づくりは役所に共通して見られるが、警察には「捜査は秘密を要する」という大義名分がある。「協力者を明らかにすれば支障が出る」という論理は、市民が何となく納得する部分がある。県庁職員が食糧費で飲み食いしたり、カラ出張で裏金をつくるのとは市民の受け止め方が違う。

 本当の協力者名を公表できない場合は当然あるだろうが、捜査費を「いつ」「いくら」使ったかは出せるはずで、捜査の支障にもならない。

 行政情報は原則公開であり、一端も明らかにできない予算は本来あり得ない。市民の情報開示請求に対し、最初から真っ黒の全面非開示を前提とした議論はおかしい。

 歴史的に考えれば、予算が予算たる理由は、国民が金庫の管理を国王や絶対君主から取り戻したからだ。市民革命で君主から租税の賦課徴収権や歳出権を奪って、初めてバジェット(予算)の概念が生まれた。

 捜査費も、もとは国民の税金。支払わない者に罰則まで科して強制的に徴収したものだ。使途決定権は主権者である国民にある。初めから使い道を公開しないのは民主主義の原理の否定に近い。

 それは(執行側の)説明責任などというレベルの話ではない。県議会の予算議決は、県民が警察にこれだけの歳出権限を与えることを承認したという意味だ。警察には一銭たりとも自由に使える金はない。県警はこの原点を忘れては困る。

 ▼制度の改革こそ

 地方分権が言われているが、この10年以上にわたる改革の中で、全くの「かやの外」に置かれてきたのが警察制度だ。

 階級社会の警察のトップに、霞が関採用のキャリア官僚が突然来る。現状の国家公務員制度は採用試験の分類で将来の昇進可能性が決まる一種の身分制度だから、警察は階級社会と身分制度が結び付いている。

 人間の能力を最初から否定した組織が機能するはずがないし、そこでは現場の使命感もいつまでも続かない。だから、不祥事の続発などいろんなほころびも出てくる。

 捜査費問題の根本的な解決は中途半端な警察制度を改め、名実ともに自治体組織にすることだ。知事の予算権限と公安委の監督権限の実質化がその大前提になる。

 しんどう・むねゆき 昭和21年神奈川県生まれ。中央大大学院修士課程修了。専修大法学部助教授、立教大法学部教授を経て、千葉大法経学部教授。専門は行政学。分権型政策制度研究センター長。著書に「地方分権」「技術官僚―その権力と病理」(いずれも岩波書店)「財政投融資」(東京大学出版会)など。

インタビュー終わり

    ■ □

 捜査費問題は、市民やメディアが公権力をどう監視していくかも問うている。この観点から北海道で開かれたシンポジウムの内容を掲載(6日付朝刊)する。

社会部・大山哲也 
  村上和陽


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