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’04出直し知事選 本紙記者座談会(上)「私たちは何をどうみているか」

(2004年11月9日・朝刊)
辞職勧告決議案の可決直後に橋本大二郎前知事は辞職願を提出。県政は2カ月近い「知事不在」と出直し知事選という非常事態へ(10月8日、県議会本会議場)  3年先だったはずの県知事選挙が、目の前にある。「突発」「連年」そして「出直し」――。降ってわいた知事選を形容する言葉は、どれもが県政史上で前例がない。平成3年知事選の「草の根選挙」の舞台裏で行われていた闇の選挙資金調達という13年前の出来事は、県議会の百条委員会による疑惑解明と調査報告、疑惑への関与が疑われる知事への辞職勧告決議とそれを受けた現職知事の辞職と出直しへ。11日告示・28日投開票の知事選には、昨年11月に4選を果たした橋本大二郎氏(57)が「県民に信を問う」として臨み、前回橋本氏との一騎打ちに敗れた前高知市長の松尾徹人氏(57)が「政治生命を懸けて」再挑戦する。周辺取材を続けてきた私たち高知新聞の記者は、この事態と背景をどうとらえ、この先何をどう考えていけばよいのか、互いに意見をぶつけ合ってみた。本紙コラム「話題」の執筆メンバー6人による記者座談会の内容を、2日に分けて採録する。

 【写真説明】辞職勧告決議案の可決直後に橋本大二郎前知事は辞職願を提出。県政は2カ月近い「知事不在」と出直し知事選という非常事態へ(10月8日、県議会本会議場)

 《参加者》

 依光隆明(東京支社編集部)

 須賀仁嗣(本社政治部)

 岡林直裕(  同  )

 野本裕之(本社経済部)

 山岡正史(本社社会部)

 岡村啓太郎(  同  )

 

▼辞職の意味 「政争」打開へみそぎ

 依光 あれよあれよという間にこんなになってしまった。途中までは自民党が攻めているな、でもそれほど決め手もないし…とまあ、それほど事を大げさに考えてもなかった。ところが10月に入って突然パタパタパタと…。何でかなという素朴な思いがある。

 須賀 前知事の言うように、流れは昨年浮上した選挙資金疑惑に戻らないと。そこから百条委ができて、その結論付けがあって。9月県議会が始まった当初は、反知事派と言われる自民党の中でも、9月議会で何か突き付けるというのは「まあ無理よ」という雰囲気があった。第一、百条委の報告書は、橋本知事の説明責任の履行を求めていたわけだから。

 山岡 辞職勧告という言葉が出始めたのは?

 岡村 自民党県議に聞いたところでは8月。不信任の話が出ていたが、どう考えても数が足りない。それで今回はせめて辞職勧告でいこうと。辞職勧告は闇融資事件の時にも突き付けようとしたが、腰砕けで特別決議にトーンダウンして終わったからね。ただ、動きは一部にとどまっていた。

 岡林 不信任はまずない。不信任なら知事が議会解散に打って出ることも想定しなければならないから、そこまでの腹決めは議会の中になかったということ。

 依光 そもそもこのネタ(資金疑惑)で不信任までは行けない。

 岡林 そう。辞職勧告決議と、前回の百条委で示したような特別決議、この二つの選択肢しかなかった。どちらかというと、辞職勧告までいくような雰囲気、流れは薄かった。ただ橋本さんの側から見たらどうなのか。起死回生の手をどこかで打ちたいとの思いが、橋本さんにはあったのではないか。県議会との「政争」を何とか打開したい、そんなふうに思っていた節はある。

 須賀 昨年の知事選で4選した時点で、本人としては一度リセットした気分ではなかったのか。

 岡林 だろうけど、県議会内の反知事勢力からの風圧は強まるばかり。それは疑惑だけでもない。予算や条例が自分の思い通りにならなかったりとか、議会との関係がとにかく円滑に回らない。民意を得て4選しても、自分の思う方向にどうしても行かない部分があった。

 須賀 通らなかった予算は新旅費システム関係などだが、それで16年度当初予算案本体が修正された。修正は昭和30年以来2度目という異例のことだ。人事は、出納長の再任議案。提案見送りという形にはなったが、実質はけられて引っ込めたようなもの。

 岡林 しかも出納長、教育長の人事がセットされていて、人事議案についてはまさかそういう形にならないだろうと。議会側にも、人事議案については暗黙の了解があって、出してきたものをけるスタンスはないだろうと。ところがそこの暗黙の了解すらも崩れてしまった。

 須賀 新旅費システムに関しては、執行部側の説得力が足らなかった。県外大手1社に丸投げしていくという、いくら職員の仕事の効率化につながるとはいえ、そこにはいまの地方が直面しているテーマがある。地方はいかにも不景気で、食いぶちも乏しい。それをまた召し上げる格好に映ってしまう。それに対してあまりにも配慮がなさすぎた。予算案本体を削るというのは知事いじめでも何でもない。むしろ、議会が本領を発揮したと思う。

 山岡 辞職勧告決議案を出す側はどういうイメージだったのか。

 須賀 出して通らなければ、それこそみっともない話。出す以上は、過半数確保という勝算を立てる。

 野本 辞職勧告決議には拘束力はない。「辞職勧告された知事」というレッテルを張るだけ。だから、ひとつ傷つけてやろうかという…外から見ていたらその程度かなと思えるが。

 須賀 議会人というのはたぶんそういう意識。最大級の警告。

 野本 ただ、その後、橋本さんが本当に辞職した時に、決議した方は何のカードも持っていなかった。辞職せよと言っておきながら、本当に辞職した場合に県議のほとんどが右往左往していたように映る。

 岡林 不信任ではなく辞職勧告にしたというのは、間違いなく議会の理屈。字面で言っても「勧告」なんだから、議会は知事の進退に決定的に影響を与える不信任にはしないよという意味合いで辞職勧告にしている。

 須賀 しかし、その感覚が一般的じゃなかったということが、今回のケースでわれわれにも分かった。辞職勧告が通れば辞めなくてはいけないのでは、と少なからぬ人が思っていた。

 山岡 辞職勧告には法的な拘束力がないのに辞めるのはいかがなものか、選挙費用も掛かるのに、という見方があるが、それはどうか。決議案が否決されたらともかく、可決されたんだから。いい悪いではなく、辞職するかどうかは政治的な選択肢の問題だ。

 岡村 しかし、知事という職責の重さを考えると、「お辞めなさい、はい、それでは辞めます」というのはないんじゃないか。本人が言うように、今がすごく重要な時期ならなおさらそう思う。

 依光 でも、辞職を勧告して辞めたということは、形としては県議会が辞めさせたということ。

 須賀 橋本さんと県議会、民意に寄り添うのがどっちが得意かは、火を見るよりも明らか。だから橋本さんは記者会見でも、自分で辞めるつもりはなかったとすごく強調していた。こんな大事な時に仕事ができないということは大変なことなんですよ、とくどいほど説明した上で、自分は辞めるつもりはないんです、と。暗に、県議会に辞めさせられた、と言っているわけ。ずるいと言うかうまいと言うか…。

 依光 仮に辞職勧告決議が可決されてそのまま知事の座にいたとしたら、橋本さんは仕事をやりづらくなるんだろうか。

 野本 複数の経営者に、「辞めなくてもいいのに辞めた知事にも、この状況をつくり出した原因があるのではないですか」という質問をした。そしたら「あの状況やったら、辞めてすっきりリセットした方がずっと仕事ができるから、私でも辞職を選ぶ」という人が多かった。「辞めてみそぎを受けて出てきた方が知事としての仕事ができるんだ」と。

 依光 本人は否定しても、やっぱり「みそぎ」を受ける選挙になる。

 

▼13年前の出来事 「原罪」を引きずる

 山岡 なぜ橋本さんが辞職と出直しという挙に出たか。これは、記者会見で言った「原罪」という言葉がキーワードになるような気がする。

 岡林 決議案採決の前日、再選で疑惑のみそぎを受ける考えかと聞かれて、「ある意味の原罪は背負っていかなくてはならない」と答えている。

 須賀 その意味合いは、「でたらめな選挙資金調達をやった笠(誠一・元後援会事務局長)さんを連れてきたのは私。その罪」というように受け取れる。

 山岡 明確な形では罪を認めてはいないけれども、原罪という言葉はどう考えても罪だ。罪と罰はセットであり、罪を認めたら当然罰がある。その捨て場というか、終わりにする場所を求めていたんじゃないか。本人は認めないだろうけど、今回の辞職は橋本さんが自らに科した罰としての意味もあるように思う。

 依光 本当は本人(橋本氏)も一切知らないということじゃないような気がする。例えば、町田照代後援会長が1億円を貸したというのは以前から聞いていた話だ。橋本さんも知っていたとしたら、うそで塗り固めていくのが相当なストレスになる…。

 岡林 関知・関与は否定しているが、選挙資金に不明朗な点があることは橋本さんも認めた。つまり、まるっきりきれいな選挙だったわけではないという一定の認識がある。それが原罪という言葉につながったのか、彼の記憶の中でそういうのがストレスになって原罪という言葉になっていったのか、そこは分からないけれども、思いを引きずっていたのは間違いない。

 野本 13年前の出来事は一定事実なんだろうけど、知事に完全無欠を求めるわけ? 完全無欠の政治家なんてのはあり得ない。だから、橋本さんのすべてがいけないというのは違和感がある。

 山岡 13年前の疑惑をなぜ今、という言い方は、橋本さんの立場からしたら当然だろう。ただ、疑惑の中身とは別に、疑惑に対して橋本さんがどう話すか、どう向き合うか。その姿勢も問われていたのでないか。

 須賀 自民党県議には建設業界出身者もおり、内情を誰より知っている。談合で口を割るやつは業界で飯を食えない。だから談合で証言が出てくるとは最初から思っていなかっただろう。その意味で、最初からこの問題は知事の失点につなげる道具でしかなかったという構図はある。

 野本 不思議なのは、談合にまみれた業界と深い関係がある勢力が談合を追及し、談合のような旧弊をなくそうとしている前知事側が追及されている点だ。これが今回の問題の不自然さを端的に示している。

 須賀 出直し知事選をすることによって疑惑がうやむやになる、という県外識者の指摘も紙面で伝えたが、結局、橋本さんには反証の材料がないわけだ。攻め手側にしろ知事の側にしろ、クロかシロか双方とも立証しようがない。県民は真実が分かりようがないところに追い込まれている。橋本さんが辞めても辞めなくても、うやむやは引きずってしまう。

 野本 疑惑はもう解明しようがない。「百条委報道はうっとうしい」という読者の声もよく聞いたし、このままでは対立を生み続けるだけだ。結論の出ない論議を繰り返しても、県政全体を考えたら何のメリットもないよ。

 須賀 それなら、政治資金規正法など、政治とカネの問題をただす法はいらないということにもなる。

 野本 法律論で言えば、もう時効の話だ。橋本さんが権力欲のかたまりで、いろんな悪いことをして、その一つが出てきて追及していくというのなら分かる。しかし、相対的に考えて、過去の知事よりはずっといいんじゃないか。透明度もかなり高まったし、闇の勢力なるものとも決別してきた。

 依光 橋本県政の光と影については別に論議してみよう。

 

▼説明文書 「思い」で責任果たせたか

 岡村 10月末に橋本さんが公表した説明文書についてはどうみている?

 依光 あれはあれなりに結構読めた。それなりの理屈があって、最後まで読めた。

 山岡 あれは「説明文書」じゃなくて「情宣文書」だと思った。表現の仕方も、文章の切り方も。客観的にみて、とてもじゃないが説明文書とは言えない。

 岡林 疑惑の中身でなく、疑惑の背景を重視している。

 野本 まあ、いいとこ取り。自分の都合の悪いことはほとんど言っていないから。

 山岡 自分が調べて分からなかったことは整理して出すべきだ。分からなかったことはこれこれ、と。そういう書き方は最低しなければ。

 野本 選挙を控えたときの説明と現職にいるときの説明は違ってくる。選挙が目の前にぶら下がっている状況を考えた上での文書としたら、普通、ああいう書き方になるよ。説明というより辞めたことを正当化する方向に軸足が向いていたことは否めないけど。

 須賀 だから、「説明文書」ではなく、選挙向けの「アピール文書」と解説記事で位置付けた。かなり抑制したつもりだが、それでも「大二郎ファン」からは抗議をいただいた。

 岡林 橋本さんは9月県議会の前から、自分なりの「思い」を文書にまとめて県民の皆さんに示したい、それをもって説明責任に替えたいということを強調していた。

 山岡 世論調査にも出ている。大ざっぱな受け止め方として、知事は説明責任を果たしてないと。その通りで、これまでの彼のイメージとのギャップに落胆した県民も多かったのではないか。

 岡村 「思い」を伝えることと説明責任を果たすこととは違う。13年前の出来事に橋本知事がどう対応したかという点でこの文書をみれば、およそ不誠実じゃないか。

 依光 確かに論理のすり替え。だけど、事実関係については調べようもないんじゃない?

 野本 すべてを説明するつもりは最初からなかったんだろう。

 岡村 しかし、説明が遅れた理由で「完ぺきを期す自分の性格」とか言うのは理由にならないだろう。

 岡林 とにかく、そこは県民に判断してもらいたい、となっている。13年も前の出来事に重きを置くのか、浮上してきた背景に重きを置くのか、どっちですかとね。

 

▼報道のジレンマ 権力者の監視は使命

 野本 百条委員会についてだが、高知新聞は詳細に報道してきた。問題の性質からして、全体像をつかむには必要だっただろうが、県民がついてきていたのかどうか。「やり過ぎ」の声も出ていたと思う。

 須賀 そういうとらえ方をする読者は確かに多いだろうな。

 岡林 百条委報道に対しては賛否を含めそんなに反応もなかったのに、橋本さんが辞める前後から高知新聞への批判が強まった感じがする。疑惑の内容がどの程度理解されているか分からないけど。

 野本 13年前にあった出来事、それ自体を見ればジャーナリズムとして追及すべき対象だと思う。しかし、高知新聞として一生懸命報道しているにもかかわらず、そう見てくれていない人も多い。「自民党の手先」と見る人もいる。

 岡村 そもそも、この疑惑浮上のきっかけ自体、県と土地トラブルになった業者が、自らの要求を知事に直訴したがはねつけられ、知事と対立する自民党の県議に話を持ち込んだのが発端。百条委の設置も自民党が主導した経緯があったからね。

 依光 しかし、知事という最高権力者周辺に対する追及は断固としてやらねばならない。

 須賀 知事の追い落としが目的でこの疑惑が取り上げられた経緯は、昨年の連載記事で明快、克明に伝えたんだけどね。

 依光 大事なポイントは橋本さんが関与したかどうかではなく、坂本ダムの談合の問題が極めて露骨に証言されたということ。県内で最後の巨大公共工事と言われ、当時談合のうわさも出た。その問題が極めて具体的に、どこの会社が何千万円ということまで浮上した。そしたら議会としては調べるのが筋だ。高知県議会は実は全国でも相当高い調査能力を持ち、一生懸命調べる議員が育ってきている。こういうネタが出てきたら、県議会が「じゃあ調べよう」というのはまっとうな反応。それを精いっぱい報道するのも、またまっとうだ。問題は、高知新聞の報道がなぜ一部でそう思われるようになってきたかだ。

 岡林 最初からこの問題を詳しく報じてきたのは高知新聞だけ。ほかの新聞などは当初、疑惑の内容を報道しなかった。高知新聞だけ突出している、となったんだろうね。

 山岡 ある人に言わせると、県民は知事のことを権力者とは思っていない。権力を握っているのは自民党であり、その周辺の業界有力者。その旧来型の権力と戦っているのが橋本さんなんだという見方で、高新はそんな人をいじめている、と。「いじめ」という言葉からは、知事=権力者という視線は感じられない。

 岡村 本紙は県警の捜査費虚偽請求問題を追及している。警察は権力そのものだ。その疑惑を追及して「高新が県警をいじめている」とみる読者がいるだろうか。

 岡林 なぜ百条委員会を詳しく書き続けたか。それは談合が疑われ、今もその温床が残っているとしたら…と考えるから。談合と表裏一体の問題として平成3年知事選の資金疑惑があったが、いま疑惑とは何かと聞いて、公共事業の談合だったという話にならない。残念ながら。

 須賀 坂本ダム工事が「天の声」の差配による不正入札だった可能性は、一定示せたと思う。ただ、「天の声」がなぜ発生するか、橋本県政以前はそれがどうだったかが検証できていない。だから報道では、おそらく中内県政でもあったはずの「天の声」の実態、それが橋本県政になってから何がどう違ってきたのかも浮かび上がらせた上で、知事と議会が手を握り合ってそういうものを抑止する仕組みづくりを進めるのが本筋だと思っていた。

 岡村 ところが、県議会も前知事もそういう反応ではなく、県民の中からも「知事をいじめた、いじめられた」と、そんな声が出る。ここらが消化不良であり、不満だ。


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