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捜査費問題実態を証言 全国市民オンブズマン函館大会(2004年9月19日・朝刊)
【写真説明】全国市民オンブズマン函館大会。警察の捜査費問題をテーマに、元北海道警幹部らが不正の実態を証言した(8月28日、北海道函館市のホテル) ◆出席者 〈パネリスト〉 元北海道警釧路方面本部長 原田宏二氏 元北海道警弟子屈署次長 斎藤邦雄氏 弁護士 市川守弘氏 北海道新聞社・道警担当記者 佐藤一氏 ◆講演者 ジャーナリスト 大谷昭宏氏
根底に無責任体質元道警釧路方面本部長 原田宏二氏
私が裏金問題の話をした大きなきっかけに、(道警銃器対策課の現職警部が逮捕された)稲葉事件がある。防犯部長をしていたとき、その元警部は銃器対策課にいた。警察庁の肝いりでできた新しい課だった。 新しい課は実績を作らなくてはいけない。銃器対策は(協力者らからの情報収集などで)金がかかる。半端な金では情報は取れない。その金は一体どこから出すのか。金の問題を心配していた。 協力者への報償費がいろいろ言われているが、組織の金を払って使っている協力者なんて1人もいない。(警察が組織的な裏金づくりをする一方で)そうした金は刑事が自腹でやっていた。元警部もそうだった。 何とかしなくてはいけないと思っていたが、そのときに事件が起こった。個人的な犯罪として片が付いてしまった。本人も何も言わなかった。 私は「うそだろう」と思った。絶対、金の(負担の)問題が絡んでいる。それを彼のために明らかにしなくてはいけないと思いながら、「彼を弁護してやれなかった」というじくじたる思いがずっとあった。 だが、あのとき道警の金の問題を出してもつぶされていたと思う。私一人で動いても、あの巨大な組織相手には闘えない。北海道新聞(道新)の動きがあり、市川さんが動いて、そういう流れに乗れば、何とかできるかもしれないと思った。 その後、斎藤君が出てきてくれた。事前に私に何の相談もなかった。相談したら私が止めると思っていたんだろう。私も相談されたら、「余計なことしなくていい。おれだけで処理する問題だ」と言ったと思う。 ある日の朝、道新に斎藤君の証言が出ていた。「おまえ、大丈夫か」とすぐに電話をして、市川さんのところに連れて行った。私一人でもだめだったし、マスコミがいて、市川さんがいて、斎藤君がいた。全体で動いたので、ここまで来られた。 下のころから長いこと(裏金工作を)やっていると感覚がまひしてしまう。それでだんだん上になってくると、もらう側になる。 通常、捜査費は旅費と絡んで使われる。旅費は捜査員や署員一人一人に渡される。例えば、署員は捜査ばかりでなく、当直する日もあるし、いろんな仕事をやっている。うまく組み合わせないとカラ出張させられない。カラ出張させるには、旅費を裏に入れないといけない。途中から正規の旅費を支給できない。 非常に複雑な作業だ。これを間違うと監査のときにばれてしまう。当直や会議など一人一人の署員の動きを細かく把握して、うまくカラ出張させたときに事件をでっち上げて捜査費を使うようにする。だから、いったん経費を裏金にして、本当に使うときにその中から出す。そうした方がうまくいく。ある部分だけを正規で支給しようとしても、できない。 課長をしていたときに、会計検査院の検査があった。私が説明責任者だから、全部架空の事件をつくらなくてはいけなかった。そういう作業をやっていた。 現場は架空の書類を作らされ、使うのはわれわれ幹部クラス。私と同じ幹部だった人たちは(私の裏金証言に対し)「とんでもないやつだ」、現場で嫌な思いをさせられていた人たちは「よく言ってくれましたね」となる。当然でしょう。 問題になった旭川中央署の2人の署長は、かつての私の部下だった。道新がコメントを取っていたが、2人は「ノーコメント」だった。 自分が署長をやっていた時代に起こったことに、「コメントできない」って話はない。かつての職場で問題が起こったら、辞めてからでも責任を取るべきだが、そういうこと(ノーコメント)で通るのが署長のポストだ。何の責任を取らなくても済む。そんなもんだ、警察署長なんて。 2人が問題になったとき思った。みんなで長い間やってきたことなのに、何で2人だけがやり玉に挙がっているのか。私も旭川中央署長のとき同じことをやっていた。2人だけが、自分たちの発想でやったことではない。いつから始まったか分からないぐらい前から(裏金づくりを)やってる。もうやめなきゃいかん。何で時代の流れを読めないのか。
《プロフィル》
鍵を掛けた別室で元道警弟子屈署次長 斎藤邦雄氏
そのとき、自分が持っている資料が、原田さんの証言を「絶対に裏付けできる」と思った。自信はあった。道新の記者と接触しているうちに、匿名ではなく、やはり実名で出なければ、原田証言をバックアップできないという考えに至った。 自分の生活もあったが、「お父さん、どうせやるんだったら実名でないとだめだよ」という子どもや家内の理解もあって、原田さんに続いて名乗り出て、自分が実際に携わった裏金のノウハウをすべて話した。 昭和41年に道警に入り、裏金に気付いたのは昭和48年ごろ。インチキ領収書や、支払精算書を作った。本格的に裏金の書類を作るようになったのは、昭和59年から3年間。所属は道警本部防犯部防犯課の庶務係長だった。 裏金のインチキ書類、個々の支出伺、捜査員に書いてもらう支払精算書、領収書などをすべて偽造した。本部の各課に頼んだりして、筆跡がばれないようにした。 さらに、表向きの監査用の金銭出納簿を国費、道費ごとに毎月作る。金の管理は防犯部の管理官だった。私は監査用のため、支払っていない協力者への謝礼をすべて偽造した。防犯課ですべてのノウハウを覚えた。 また、監査をすり抜けるため、印鑑の印肉スタンプにまで気を使い、常時5、6個置いていた。 二枚組の領収書の左に赤ペンで「こういうふうに書いてくれ」と捜査員に渡すが、そのとき印鑑を先に押してしまうと、印鑑の上に文字が乗ってしまうことがある。字を書いてから押すのが通常で、あり得ない。監査逃れのため、本部会計課にはそういうところ(偽造方法)までチェックされた。 最後が平成12年。弟子屈署のときは、「情報提供者が後難を恐れて領収書の提出を拒否」ということで極力、偽造領収書の枚数を減らしてもいいシステムになっていた。次長が裏金を管理し、署員に領収書を書いてもらうなど、一手に引き受けていた。 一番怖いのは人目に付くこと。次長席ではとてもじゃないけど、インチキ書類を出して作れない。当然、別室にこもって鍵を掛けて集中してやらないといけない。一気にのめり込んでやらないと、必ずミスが起きる。 自分はあほらしくなった。何のためにこんなことをやってるんだと。私は原田さんをバックアップするために立ち上がった。黙っていてもよかったが、自分の性格として口をつぐんで、原田さんが名乗り出たことが無になったら、一生後悔するだろうと思った。 昨年の11月に旭川中央署の問題が出たとき、道警の知人の現職警察官は「間違いなく去年の11月までは裏金をつくっていた。もうおっかなくてできない。首になる」と話していた。 ところが、今は捜査費諸雑費という項目がある。細かい金だが、集めれば裏金になる。厳しい監視の目が必要だ。
《プロフィル》
証言者保護に苦心弁護士 市川守弘氏
請求は棄却だろうと思ったが、(書類があるので)裁判に持ち込めば、「行けるところまで行けるんじゃないか」という見通しを立てた。しかし、あくまで旭川中央署の平成7年と9年の1カ月ずつの問題でしかない。広がりがなく手詰まりだった。 原田さんが出てきたとき、「原田さんをどうやって守るか」を考えた。一つはマスコミ攻勢、もう一つは道警からの接触。道警には「直接の連絡を一切やるな。すべて代理人を通すように」と通知を出した。マスコミにも時間制限した上で、うちの事務所でインタビューを設定した。 その後、斎藤さんが新聞に出た。「これはまずいんじゃないか」と心配した。警察は接触を求めてきて、どういうことをするか分からない。そこで斎藤さんと一緒に監査請求することにした。警察も監査される対象になれば、下手な接触は絶対できない。請求は却下になったが、その間、道警はあまり露骨な手出しはできなかった。 原田さんと斎藤さんがいなかったら、今も旭川中央署の住民訴訟だけが残り、世論からも忘れられていただろう。 道警の代理人から札幌弁護士会に、私と一緒にやっている弁護士の懲戒請求が出た。何をもって懲戒なのか。裁判で道警が公的機関として主張を言わないから、道警の書面をマスコミに出したが、それが「弁護士の守秘義務に違反する」と言う。 それと、私が「品位のないことをしゃべっている」とも。例えば、旭川中央署で(捜査協力者として)名前を使われた人の裁判で、(道警側に)「ごう慢だ」と言ったら、「弁護士はそんな品位のない言葉を使うべきではない」と。道警が議会と裁判で言っていることが違ったので、「二枚舌」と言ったことが、「品位に欠ける」ということだった。 道警の体質を代理人が体現している。
《プロフィル》
「何で教える」と圧力北海道新聞社・道警担当記者 佐藤一氏
北海道の話なのに、なぜ東京のテレビに内部告発が行くのか。なぜ道新に来ないのか。今までやってきた道新の仕事が、内部告発の受け皿になっていないんじゃないか。道民の信頼に足りるメディアだったのかどうか―そういう思いがあった。 事件取材では、警察にすべて情報を握られている。警察官とはけんかをしたくない。警察官に気に入られるよう、日々の時間とお金のすべてを使っていた。その結果、彼らに文句が言えない状態になっていた。 数年前、道警銃器対策課の警部がかかわった覚せい剤や拳銃の密売事件を取材し、報道した。警部が(組織の)スケープゴートにされ、道警幹部の関与がとらえ切れないまま終わった事件だ。 「ある程度書いた」と自己満足していた。しかし、事件が終結した後、道警の広報担当者と飲んだとき、「道新さん、助かった。あんまり書かなかったから」と言われた。屈辱だった。だから今度は、取材班9人で「どんな小さい記事でも続ける」と決めた。 「釧路方面本部長」という地方の元トップだった原田さんの会見は、驚きだった。斎藤さんからはメールをもらい、すぐに連絡した。最終的に斎藤さんが勤めている会社を辞めてまで、心意気でわれわれの取材に応じてくれたときは本当にうれしかった。斎藤さんを孤立させないよう、証言者探しを続けてきた。 警察取材は、署長や各課の次席という広報担当が窓口だ。ところが、(裏金問題の報道を始めて以降)他社より少しでも詳細に書けば、そこに道警の不正経理問題の担当者が行き、「何でこんなに道新に教えるんだ。裏金の情報もおまえか」ということをやる。原田さんの内部告発も、「金をもらったんじゃないか」ということを平気でわれわれに話してきた。 去年のマスコミ倫理懇談会の全国会議の後、高知新聞の幹部と話す機会があり、高知県警の捜査費問題をやっているという話を聞いていた。道警の問題が出たとき、真っ先に高知新聞の記事を全部コピーした。高知新聞の記事の展開が、われわれの羅針盤になった。
《プロフィル》
メディアは腹くくれ 《基調講演》「日本を蝕むシロアリたち」ジャーナリスト・大谷昭宏氏
10年以上前、愛知県の「正義の警察官」という方から手紙をもらった。しかし、こちらの不手際もあって、途中から連絡が取れなくなった。愛知県警が会計検査院の調査に対する模範回答集を作っていたことまでは分かったが、それ以上追及し切れなかった。 その後も警視庁赤坂署の日当の不正支払いや、同庁機動隊のカラ出張問題を追及してきたが、ついにしっぽをつかめなかった。それが今回、やっとここまできた。 社会保険庁の問題で、高知県をはじめ全国の1カ所100万坪というグリーンピアなどの施設を取材し、追及した。 すると、国会の参考人招致に呼ばれ、そこで社会保険庁の役人のことを「こいつらシロアリが日本という国を食いつぶしている。いくら水を入れたって、シロアリが底を食いつぶしていたらたまるはずないだろう。それが私たちが払っている税金なんだ」と言った。 北海道新聞(道新)はこれまでに700本以上の記事を書き、徹底追及している。ところが全国紙は「警察庁の中に予算の適正化を図る委員会ができた」と書いただけ。簡単に言えば、この問題にどう幕引きするかを考えている。 この裏金問題の追及がいつも中途半端で終わってきたのは、われわれメディアが完全に警察の側に付き、いかにしてライバル社をつぶそうかと考えてきたからだ。 しかし、道新は徹底的に腹をくくっていた。(内部の不正にかかわる問題だけに)北海道警が「別の新聞社に違う事件ネタを流して、道新記者に赤っ恥をかかしてしまえ」ということができなかった。 警察庁は「北海道新聞ごときが、なにガタガタ言ってんだ。全国紙を使ってつぶしてやろう」となめて掛かっているうちに、道新にやられた。そして、慌てふためいたときに、原田さんや斎藤さんが出てきた。 原田さんや各地のオンブズマンが、これだけ活動しているのに、天下の公器を持つ記者は恥ずかしいと思わないのか。 道新は、各都道府県警がせっせと裏金をつくらされているのは、実はキャリアがおいしいところを持っていくためだったということをつかみかけている。 警察庁だけではなく中央省庁の幹部は、東京の青山に高級マンションを買っているが、どこで金を調達しているのか。なぜ一度は本部長になりたがるのか。それをこの裏金問題が示している。 しかし、社会保険庁は民間人をトップに持ってくることで問題を擦り抜けようとしている。警察はどうやって道新に筆を折らせようかを画策している。 果たして私たちに、「今の子どもは困ったものだ」などと言える資格があるのか。役人の不正をほったらかし、どうしようもない国をつくっておいて、子どもたちに「おまえはいい子に育て」というのは無理な話だ。 「私たちがこういう社会をつくってるんだから、頑張っておまえもこの中に入って来い」と、誇れる社会をつくってあげられるかどうか。それは、「これは許してはならない」という、オンブズマンの活動や道新の姿勢に懸かっているのではないかと思う。
《プロフィル》
■警察裏金問題をめぐる動き<平成15年>7月23日 高知新聞の報道で高知県警本部捜査1課が捜査費を虚偽請求していたことが発覚 7月24日 市民オンブズマン高知が同捜査1課の幹部らを、詐欺罪などで高知地検に刑事告発 9月5日 市民オンブズマン高知が同捜査1課などの捜査費関連文書の開示を求め提訴 9月30日 高知県警の黒木慶英本部長が県議会で県費捜査費の激励慰労の中止の考えを表明 11月23日 北海道警旭川中央署の捜査費不正支出が発覚 <平成16年> 1月23日 北海道内の男性が「捜査協力者として勝手に名前を使われた」として道に損害賠償を求め提訴 2月10日 元道警幹部の原田宏二氏が記者会見で道警の組織的な裏金づくりの実態を証言 2月13日 警察庁が裏金疑惑解明のための予算執行検討委員会を設置 2月25日 道警弟子屈署で裏帳簿による裏金管理が発覚 3月1日 元道警幹部の斎藤邦雄氏らが弟子屈署が支出した捜査費の返還を求め監査請求、斎藤氏は会見で裏金づくりの実態を証言 3月5日 静岡県警総務課が7年度にカラ出張で940万円を不正流用していたことが発覚 3月5日 福岡県警で会計担当をしていた元幹部が記者会見で、捜査費不正流用を証言 3月9日 警察庁が捜査協力者への謝礼について偽名領収書を認めない方針を決定 3月10日 高知県警捜査員が本紙の取材に捜査費の虚偽請求を認める 3月12日 道警が道議会総務委員会で、旭川中央署捜査費の不正流用を認め陳謝 3月19日 福岡県警で、昭和30―35年に事務吏員として勤務していた広川幸光氏が裏金づくりを証言 4月6日 道警が弟子屈署の不正支出、目的外流用を認める 4月20日 福岡県警が捜査費の不正支出を認める 4月28日 道監査委員が弟子屈署で不正支出と認定された約35万円について、全国初の返還勧告 5月11日 福岡県監査委員が同県警の不正支出分について返還勧告 9月13日 北海道警が、10―12年度の3年間に支出した捜査費約14億円のほぼ全額が不正支出だったことを認め、道議会で陳謝 9月17日 高知県警の捜査費文書開示訴訟で、高知地裁が本部捜査1課の現職警察官ら3人の証人採用を決定 稲葉事件 北海道警は平成14年7月、覚せい剤使用の容疑で、道警本部銃器対策課生活安全特別捜査隊班長の稲葉圭昭警部=当時=を逮捕。捜査協力者との交際費や情報提供謝礼の資金づくりのため、覚せい剤を密売していたことが判明。昨年4月、懲役9年の実刑判決を受けた。しかし、同警部の元上司と、別事件で逮捕された捜査協力者の男が、同警部逮捕後に相次いで自殺。事件の全容は謎に包まれた。
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