「お金をためて学校に行きたい…」。ジャカルタ郊外の駅で、ウジャン君はそう話してくれました。
ジャカルタでの生活も三年。帰国を間近に控えたある日、駅のホームで流行歌を歌い、乗降客から小銭を稼いでいた少年に声をかけました。「働く子ども」の現状を、自分の目と耳で確かめたかったのです。
ウジャン君は九歳。小学四年生の年齢ですが、学校には行っていません。物売りをしている父の収入は少なく、兄弟三人の教育費がまかなえないからです。そのため、彼は毎日を駅で、わずかな見返りを求めて歌い過ごします。
一日にウジャン君が得る金は平均一万ルピア(約百三十円)以下のようです。収入は家計に入れ、余裕が出れば学費として貯金していると言います。
「三年生までは学校に行けたけど、おうちにお金がなくなって、それからは働いているんだ」
こんな現実を裏付ける資料が先日、教育省から発表されました。二〇〇〇年、小学校入学時の子どもが約四百九十八万人いる一方で、約二百十一万人の児童・生徒が、九年間の義務教育を終えずに中退している、というのです。インドネシアの義務教育は、日本のように無償ではなく、授業料や教科書代が支払えない家庭は多いのです。
「日本? 名前は知ってるけど、どこにあるかは知らない」
外国の地理よりも今はお金を稼ぐことが大事とでも言いたげな、ウジャン君の表情が胸に突き刺さりました。
日本では四月から新学習指導要領が施行されます。完全学校週五日制による授業時数減と教育内容の厳選など、「ゆとり」が趣旨の一つとなっています。一方で、インドネシアでは義務教育を受ける「ゆとり」さえ生活に見いだせない現実があります。
街を歩いても、バスや電車に乗っても、何と多くの働く子どもを目にすることか。少しでも早く、彼らが学校に行ける環境になることを願うばかりです。そして四月からは、ジャカルタの街角で見た子どもたちのことを、高知の子どもたちに伝えたい。
「将来の夢は何?」。最後にウジャン君に聞いてみました。
「商売人になって、いっぱいお金を稼ぎたいな」。初めて見せてくれた、照れくさそうな笑顔が心に残りました。
(高知市出身、日本人学校教員、インドネシア・ジャカルタ在住)
=おわり=
【写真】筆者と話すウジャン君。夕暮れどき、駅のホームで電車の到着を待っていた
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