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南海地震

―― 視点 前・京都大学学長 尾池和夫(地震学) ――

 貴重な地球の遺産 室戸岬の変動地形

 四国には地球科学を志す人たちが世界からよく訪れる。四国の北側には、秩父累(るい)帯北帯という地層がある。ジュラ紀中期からジュラ紀後期に、ユーラシア大陸の東の端へ、プレートの沈み込みで付加された地層である。その南側の地層は四万十帯と呼ばれる。白亜紀後期から第三紀までの新しい地層である。

 四国の大地の地層は北から南へしだいに新しい年代である。四国の地質図は東西方向に伸びるさまざまの色の帯が並んで美しい。それらに、ジュラ紀、白亜紀、パレオジン、ネオジン、第四紀というような地質年代の名が古い順に付くのである。

 海のプレートが大陸のプレートの下に沈み込むとき、陸のプレートの端がちょうどブルドーザーのような役目をして、海のプレートの上に乗ってきた堆積(たいせき)物をはぎ取り、それらを陸の端にくっつけていく。そのようにしてできた地層を付加体と呼ぶ。日本列島のかなりの部分がこの付加体からなっている。

 とりわけ四万十帯は、高知県が誇りとする川の名が付けられた付加体である。高知県東部の南端、室戸岬周辺は、その付加体が陸上に姿を現す場所であり、また、さまざまの岩石が分布するすばらしい場所である。しかも、室戸岬は現在のプレート運動で上下運動をくり返しており、その運動の結果が波打ち際に近い階段状の地形に現れている。また、第四紀後期の氷期と間氷期のくり返しでできた雄大な海成段丘の地形も室戸岬には見事に保存されている。

 中央構造線から南側の西南日本外帯には岬が並ぶ。御前崎、潮岬、室戸岬、足摺岬で、それらに海成段丘が発達している。ゆるやかに海に向かって傾斜する海底が、海水面の変動と地殻変動とで離水した台地状の地形である。海成段丘は現在に近い時代に、その地域が継続して隆起運動をしていることを示している。

 二〇〇八年十月七日から二日間、ユネスコの世界ジオパークに申請を希望している地域の視察に訪れて、私は地元の方々の熱意と、この大地の素晴らしい景観に触れることができた。空港の近くでまず高知コア研究所の深部から掘り出されたコアを見た。東に移動し、羽根面、室戸面と呼ばれる海成段丘がよく発達した地域で、室戸少年自然の家の展望所からこの地形を一望した。ここが室戸半島でもっとも傾動運動が著しい区間であり、行当岬では室戸面が標高二〇〇メートルに達している。

 室戸岬には、マグマが深部で固化してできた貫入岩や、その高温によってできた斑れい岩、砂岩泥岩互層という普段の泥と巨大地震の時の乱泥流の互層などが見られる。帰りに立ち寄った西分漁港の防波堤横の露頭には、メランジュと呼ばれる堆積物の混在の姿があった。本当に素晴らしい大地の姿がそこにあった。

(2008年11月02日付朝刊掲載)

 ※筆者の了解を得てホームページにも掲載しています。
 
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