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南海地震

―― 視点 京都大学長 尾池和夫(地震学) ――

 馬路村を訪ねて 海と山の国の創造性

 高知県の山奥の村、日本で一番よく知られている村だろうと思う村へ案内していただいた。7月7日、ご案内下さったのは今井一雅先生ご夫妻である。

 この日、高知工業高等専門学校教授の今井一雅先生を代表者とする、文部科学省のプログラム(現代GP)「創造性豊かな実践的技術者育成コースの開発」の事業の中で、「研究者と創造性」という題で講演するようにというご依頼を受けた。学生さんたちとの討論もあり、私にとっても創造性とは何かを、あらためて考える機会でもあった。今井先生たちは、創造性教育の新しいコースをインターネットのバーチャルの世界で開発しようという意欲的な取り組みを進めている。

 高知高専から車で1時間ほど東へ走ると安田町である。30年ほど経(た)つと南海地震が起こり、大津波が予測される太平洋岸を右に見ながら走る。馬路村へはこの安田町から安田川に沿って四国山地の中へ入って行く。

 高知県は扇面の形で東西に長い。太平洋に面した県であり、はるかに環太平洋の国々につながる海岸を持つ。太平洋から四国山地までが高知県であり、世界一の太洋を目前にする山国というのが県の特徴である。山地率は89%、プレートが集まる所にできた変動帯の日本列島そのものが山地の多い島国であるが、それでも山地率は全体で54%である。高知県の山地率がいかに高いかがわかる。その山地の地質が堆積(たいせき)岩で、急峻(きゅうしゅん)な地形と相まって土砂災害の多いのも県の特徴である。

 県の西部には四万十川、石鎚山から土佐湾に入る仁淀川、北部から徳島県へ向かい中央構造線にぴったり沿って流れる吉野川があり、東部には物部川がある。いずれも水の豊かな河川であり、治水事業も昔からの課題である。

 高知県の河川事業は、一級河川の物部川、吉野川、仁淀川、四万十川の流域を基本にして、その周辺の二級水系を取り込んで、高知東部、吉野川上流、高知中部、高知西部圏域の四つに分けて行われる。安田川は高知東部圏域の川である。さしせまる山地から、太平洋に注ぎ込む二級河川がたくさんある地域で、それぞれの川に特徴があり、安田川はダムのない川であり、鮎(あゆ)の川として釣り人たちにもよく知られている清流である。

 安田川に沿って、文字通り馬の路のような狭い道を、今井先生の運転に運をまかせてしばらく行くと、1時間に10分だけ通行可という工事区間に出合う。あらかじめ今井先生がそれに合わせたので、少しだけ待つ間、梅雨で増水した川の音を聞いていると、ときどきホトトギスが鳴く。私たちはしばらく沿道に生えるカラムシの葉を取っては、大きな音を出して「草鉄砲」を競った。

 馬路村役場で村長の上治堂司さんに挨拶(あいさつ)し、村の中を案内していただいた。人気商品である木の香の豊かなバッグの工場、完成したばかりの「ゆずの森加工場」を見学した。

 馬路村のロングセラー「ゆずの村」を私たちが初めて手に入れたのは、日本101村展で大賞を受賞した1988年である。それ以来、ずいぶんたくさんの人たちに差し上げて宣伝した。谷の両側に見える手入れの行き届いた豊かな柚子(ゆず)の茂りが、私たちの思い出に重なる。本当に活気のある、これこそ創造性と言える柚子の香り豊かな村が、いつまでも記憶に残るであろう、七夕の日の半日の旅であった。

 

2006年7月16日付朝刊掲載

 ※筆者の了解を得てホームページにも掲載しています。

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