高知コア研究所の活躍
2006年4月から始まる第3期科学技術基本計画では、5年間で25兆円を投資するという政府の方針が掲げられた。2006年度の計画では、宇宙航空研究開発機構のロケット打上げ計画が目立っているという見方もあり、世界的な高性能を誇るスーパーコンピューターの開発に注目する人も多い。
はなばなしく見える話題に少し隠れ気味ではあるが、大変しっかりと足を地につけた研究計画が、高知大学などの関係者によって精力的に進められている。「ちきゅう」と呼ばれる深海底の掘削船が誕生して昨年9月に一般公開され、「ちきゅう」の活動にともなって高知コア研究所が活動を始めた。独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が「ちきゅう」を運営して、世界で初めて地殻を掘り抜いてマントル表層部まで掘り、そのコアサンプル(柱状の岩石や堆積物試料)を採取して分析するという壮大な計画(IODP)が進められる。その最も重要な、コアの非破壊分析から保管、さまざまな精密解析を、東垣(あずまわたる)所長のリードのもとに行うのが、JAMSTECと東京大学海洋研究所の協力のもとに高知大学の中に設置された高知コア研究所である。この研究所には世界の研究者が集まってきて、初めて手にするマントルまでの一連のコアサンプルの分析を、あらゆる角度から行うことになる。
ここには世界の科学者が多くの期待を持って見つめるテーマがある。まず第一は、高知県の人びとの関心のまとでもある南海トラフの巨大地震を起こす震源断層面の姿である。どんな物質があって、どのようにズレを起こしたか、過去の地震を起こしたときどれだけの高温になったのか、というような疑問が列をなして待っている。
二番目は地球環境の歴史である。過去の自然環境の歴史が大地震などで破壊されていない海底のコアから連続的に読みとられる。すでに昨年11月に下北半島東方沖の水深1200メートルの海底でとったピストンコアに、火山灰を挟んだ地層が観察された。
三つ目のテーマも大きな楽しみの一つである。地下深部の岩の中にいる微生物である。極限の環境にどんな生物がいて、それらが生命の起源となった可能性をもつのかどうか、新しい発見の報告が高知コア研究所から世界の人びとに発信されることになる。
深部掘削は、宇宙研究でいうとロケットを打ち上げるのと同じで、一本の道筋に沿ったデータが得られるものである。人工衛星のように地球を面で観測するようなデータが得られるものではない。固体地球を包む大気圏の厚さは100キロメートルほどで、ロケットはあっという間にその外へ飛び出していく。それがいくつも打ち上げられるのだが、地球の中に向かって発射されるロケットであるコア掘削の仕事は大変な仕事で、この「ちきゅう」によって初めてマントル上部に達するデータの道がまず一本できるのである。大気圏と同じ厚さの、地下100キロメートルほどあるリソスフェア(プレート)を突き抜ける日は、いつやってくるのか、まだ見当もつかないのである。
JAMSTECの地球深部探査センター長である平朝彦(たいらあさひこ)さんは、「ちきゅう」の運営と「統合国際深海掘削計画(IODP)」の推進役であるが、かつて高知大学にも在籍していた研究者で、南海トラフに関する論文や日本列島の形成に関する著書などから私も多くのことを学んだ。
(2006年2月19日付朝刊掲載)
※筆者の了解を得てホームページにも掲載しています。