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南海地震

―― 視点 京都大学長 尾池和夫(地震学) ――

 巨大地震による地殻変動 インド洋に増えた島々

 地震予知連絡会でインド洋沿岸地域の地殻変動についての報告があった。この地震予知連絡会は、日本の地震予知研究を推進する機関から委員が出ていて、それぞれの機関の情報を持ち寄り、最新のデータや分析結果、あるいは地震予知に関係する新しい研究成果の速報などを報告して、意見を交換するための機能を持っている。また、特定のテーマに関する議論を深めるために、その分野の専門家を招いて、総合報告をもとに密度の高い討論を行うこともある。

 私も以前この地震予知連絡会の委員であったが、その期間に得た知識の蓄積は大きく役立っており、私自身の関(かか)わったテーマでも、例えばこの欄でも触れた西日本の地震活動期のことなど、よく討論された。世界的に見てもすばらしい情報共有のためのシステムであり、ぜひ永く続けてほしいと願っている。

 普通、地震予知連絡会では日本列島に関する情報の交換や議論が行われて、あまり海外のことは出てこない。例えば、2004年12月26日にインド洋沿岸に起こった巨大地震の後、次々と連鎖的に起こるであろうと考えられる大規模な現象、例えばスマトラ島やジャワ島の活火山の噴火や、スマトラ島南西沖のプレート境界の大地震、あるいはスマトラの内陸にあるスマトラ断層の活動などの予測に関しては、日本の科学者の研究成果も多いが、この地震予知連絡会にはあまり発表されなかった。

 しかし、実際にすでに起こった現象の情報は、同じような仕組みを持つ日本のプレート境界の活動のモデルにもなるのだから、たいへん参考になり、次つぎと明らかになる事実に皆が注目している。地殻変動に関する今回の報告もまさにこのような種類の情報なのである。

 スマトラ島の沖のインド洋にあるニアス島の北西海岸に沿って、巨大地震の後、島がたくさん増えているということが、欧州宇宙機関のレーダー衛星エンビサットが撮影した画像の解析で分かった。これが国土地理院の主任研究官である飛田幹男さんたちが地震予知連絡会で報告した内容である。約1キロも海岸線が沖に伸びた場所もある。最大2メートルほど隆起したと見られ、長さが100メートルとか1キロもある島が10個ほど生まれた。2回の巨大地震で増えた陸の面積は約144平方キロ、減った面積は約33平方キロで、差し引きすると111平方キロの増加である。陸が増えた場所は、海の仕事ができなくなって大変だろう。面積が減った所では、これから先、長い間にわたって回復する面積は少なく、土地がなくなってしまったのだから、これも住民にとっては大変深刻な問題である。

 今、南海トラフのプレート境界に沿って進行しているフィリピン海プレートの沈み込む運動では、陸側のプレートの先端がフィリピン海プレートの上面に引きずられて沈んでいる。そのため、室戸岬や潮岬の先端でも沈降運動があり、標高が低くなっている。その運動は前回の南海トラフの巨大地震直後から始まり、同じ調子で続いている。沈降した分か、それ以上に次の巨大地震のときに跳ね上がる。

 前にこの欄に書いたように、昭和の巨大地震では、室戸は1・27メートル上昇し、須崎や甲浦では逆に約1メートル沈下、高知市付近でも沈下して田園15平方キロが水没した。

 このように今は隆起している地域は、次の南海トラフの活動の時には急激に沈降することになる。フィリピン海プレートはどんどん沈み込みを続けていくが、陸のプレートは同じ先端部がたわんでは巨大地震とともに元へ戻るという運動をくり返して、ずれをくり返す活断層を発達させているのである。高知の沖に21世紀の前半に起こるのと同じ運動が、今インドネシアの列島に沿って起こっている。インド洋での貴重な観測結果を次の防災に活(い)かせるよう、よく理解しながら注目していかなければならない。  

2005年6月19日付朝刊掲載

 ※筆者の了解を得てホームページにも掲載しています。

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