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南海地震

―― 視点 京都大学教授 尾池和夫(地震学) ――

 必要な津波の知識 次の南海地震の想定に

 南海地震が起こると、大津波が発生して西日本の南海岸を中心に被害が出る。その津波の様子を知るには、過去の南海地震のときの記録に学ぶのも一つの方法であるが、同じプレート境界に繰り返して起こる南海地震ではあっても、その起こり方は毎回かなり異なっている。津波の起こり方も異なり、海岸に押し寄せる津波の様子も異なってくる。とくに前回の昭和の南海地震では、津波の規模がやや小さかったので、そのときの記憶だけで次の南海地震のことを考えるのは危険である。ここでは津波のことを考えてみたい。

 海の波にはさまざまの波がある。いつも見かける大波小波、波乗りの波、熱帯低気圧のときにある高潮、海底噴火や地震や海底地すべりで起こる津波など、たくさんの種類の波の姿をすぐに思い浮かべることができる。これらの波にはそれぞれに特徴があり、それに応じて海水の動き方が異なる。そのことをまず理解しておかないと津波の恐ろしさに気づかないことになる。

 海に浮かんでいる木片をよく見るとわかるように、波がはるか沖から浜辺まで押し寄せてきても、木片はその場所で海水面に浮かんで運動しているだけである。つまり、波というのは、エネルギーが沖から浜辺まで運ばれてくる現象であって、水そのものが流れてきているのではないということがわかる。

 波に運ばれてきたエネルギーが渚(なぎさ)までやってきて、波の乱れを生んで海草を打ち上げたり、砂を掻(か)き回したりするエネルギーに変わる。小さい波では海面に近い水だけが数メートルの範囲で動いているが、津波の場合には波長が長く、波の進む方向に沿って前後に、大きく1キロも動く。上下にも大きく動くから深い所まで動く。それだけ津波は大きなエネルギーを運んでくるわけである。

 南海地震が発生した場合の津波を、震源モデルからコンピューターで計算した結果は、画像でも見ることができるようになっているが、そのデータをくわしく分析して波の様子を見ると、まず、山から次の山までの距離(波長)は、50キロほどもあることがわかる。また、一点の上下運動の時間は50分にもなる。この時間を津波の周期という。つまり、南海地震の津波は周期五〇分の長波であるということになる。

 このような長波は、こまかい地形などには影響されずに伝わり、海岸では効率よく反射するという性質を持っている。また、海の深さが深いほど速く進む。その結果、波は海の等深線にほぼ直角に進むことになる。だから、島があると周囲から島を取り巻くように大波が押し寄せ、湾があると湾の形に沿って波の先端が曲がって押し寄せてくる。言いかえれば、島でも湾でも、広い範囲にわたって波はほぼ海岸に同時に押し寄せることになる。

 海岸に押し寄せた波は反射してまた沖へ進んで行くので、入り江や日本海のような沿海では複雑な伝わり方となって、波が行ったり来たりを繰り返し、津波の規模が大きなときには何時間も波の押し引きが続くこともある。

 めったにないが確実に起こる次の南海地震に備えて、津波の研究と対策は今後もどんどん進めてほしい。そして、以上のような津波の最新の知識も、市民にしっかり伝わるような仕組みが必要であろう。

 

2003年10月5日付朝刊掲載

 ※筆者の了解を得てホームページにも掲載しています。

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