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南海地震

―― 視点 京都大学教授 尾池和夫(地震学) ――

 次の南海地震 近い将来確実に発生

 1946(昭和21)年に前回の南海地震が起こったとき、私は6歳半で、香美郡在所村(今は香北町)の谷相にいた。夜中の大揺れを知らずに寝ていて、母が庭に運び出してくれていたが、朝起きたら家のまわりの景色が大きく変わっていた。わが家の土蔵は崩れ落ち、庭のまわりの土塀はなくなり、近くの大きな岩はころがり落ちて道をふさいでいた。

 このような巨大地震がまた同じようにくり返し起こるということがわかってきて、政府は昨年、次の南海地震の発生に関する報告書を発表した。この長期評価の報告は、26ページにわたる詳しいものである。その内容はたいへん難しいが、地震の規模はマグニチュード8以上、発生確率は今後30年、40年、50年以内で、それぞれ40、60、80%であるということさえ読みとっておけば、防災対策を進める決断をするには十分だろう。

 土佐高校を卒業した高知県出身の地震学者に、高知新聞がエッセーを書くスペースをせっかく下さったのだから、この次の南海地震のことをやはり書かなければと思った。だから、この話はたぶん何回かにまたがって続くことになる。

 地球はプレートという岩盤の板に覆われていて、そのプレートとプレートが出合う境界には巨大な地震が起こり、その動きで大きな山脈などができる。四国もこのような巨大地震のおかげで生まれた。南海地震は、フィリピン海プレートの北端部がユーラシア・プレートの端にある西日本の下に沈み込んでいるプレート境界で起こる。つまり高知のすぐ近くで起こる。

 そのプレート境界は南海トラフと呼ばれている海溝で、南海地震というのは、そこでくり返し発生する巨大地震の呼び名である。くり返し発生するので、名前の頭に発生した時代がつく。前回の巨大地震は「昭和の南海地震」といい、その前のは「安政南海地震」(1854年)、その前は「宝永南海地震」(1707年)というように呼ばれる。

 次の南海地震は今のところ「21世紀の南海地震」というように呼ばれるが、それは21世紀の前半には確実に起こるであろうと考えられているからである。つまり長期的な観点からよく予測できている巨大地震である。

 巨大地震が起こるのはまちがいないとしても、その21世紀の南海地震が具体的にどのような姿で起こるかは、それほどはっきりわかるわけではない。この南海地震で強い揺れが各地に発生するのはまちがいないし、大津波が発生することもまちがいないが、それぞれの町がどれだけ揺れ、どれだけの津波がくるかという予測をするには、いろいろのケースを想定して計算しておかなければならない。1つや2つだけのモデルの計算結果をもとに被害想定したり、防災対策を進めていると、思わぬ方向に結果がはずれてしまうこともあるであろう。

 今確実にいえることは、次の南海地震は、これからの近い将来に確実に起こることがわかっている巨大地震であり、その発生までに何をすればいいかをよく考えてみなければならない地震だということなのである。

2002年4月7日付朝刊掲載

尾池教授

尾池和夫(京都大学学長)

 1940年東京都生まれ。地震学者。土佐中、高校を経て京都大学理学部地球物理学科卒業。京都大学理学博士。地震学会委員長、日本学術会議地震学研究連絡委員会委員長、京都大学理学研究科長を歴任。現在は京都大学学長(2003年12月16日就任)、地球惑星科学専攻。地震予知連絡会委員、京都市防災会議専門委員。「活動期に入った地震列島」(岩波書店)、「日本地震列島」(朝日新聞)ほか著書多数。京都府宇治市在住。

尾池和夫のホームページ
 http://www-seis.kugi.kyoto-u.ac.jp/~oike/index-k.html
尾池和夫の休日用ホームページ
 http://homepage2.nifty.com/cat-fish/index.html

 ※筆者の了解を得てホームページにも掲載しています。


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