2017.05.10 08:15

【首相改憲発言】9条の優先は危うすぎる

 安倍首相が改憲について「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と表明するとともに、9条に自衛隊の存在を明記するなどの案を示した。
 憲法記念日に開かれた改憲派の会合に寄せたビデオメッセージでの発言だ。自民党総裁としてではあっても、憲法を尊重し、擁護する重い義務を負う首相の唐突な発言に強い違和感を抱かざるを得ない。
 9条は1項で戦争の放棄、2項で戦力の不保持と交戦権の否認を定める。自衛隊は戦力ではなく、自衛のための必要最小限度の実力と位置付けられてきた。首相の提案は現行の条文を残しつつ、自衛隊を明文で書き込むという内容だ。
 発足から60年以上がたち、自衛隊の存在は国民に定着している。2項を削除し、「国防軍」の保持をうたう自民党の改憲草案とは異なり、公明党などのほか、国民の理解を得やすいとの考えがあるのだろう。
 だが、安倍政権の下で、「専守防衛」の国是が象徴する平和主義は変質した。いうまでもなく、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認と安全保障関連法の施行だ。
 自衛隊の役割は拡大し、装備も従来の枠を大きく超えていく可能性がある。変わりゆく自衛隊を9条に明記することと、戦力不保持の規定は整合性を持ち得るのか。疑問は拭えない。
 安倍首相は明記について、憲法学者らにある自衛隊違憲論のような議論が生まれる余地をなくすべきだ、と述べた。だが、いまも根強く残る安保関連法に対する違憲の疑いを数の力で切り捨てたのは首相だ。ご都合主義というほかない。
 憲法改正の発議に向けた議論は国会の役割だ。現に衆参両院の憲法審査会が慎重に議論を重ねている。行政府の長である首相が改憲項目や期限に言及することは、憲法順守義務に抵触しかねない。
 9条を巡る見直し発言は衆参の予算委員会で取り上げられた。質問に対し、安倍首相は自民党総裁としての立場を使い分け、突っ込んだ論議を避けた。無責任な対応としか映らない。
 衆院の答弁では「党総裁としての考え方は読売新聞に書いてある。それを熟読していただきたい」とも述べた。委員長から注意されたが、国会、ひいては国民の軽視と受け止められても仕方がない。この種の発言があまりにも多すぎる。
 安倍首相が改憲の期限を2020年としたのは東京五輪・パラリンピックが開かれるからだが、いったい何の関係があるのか。五輪開催によって日本が新しく生まれ変わる、といった言葉は、多くの国民にはむなしく響くだけだろう。
 平和国家の礎である9条のありようは「この国のかたち」を将来にわたって左右する。9条見直しの優先を明確にした首相の前のめりの姿勢はいかにも危うい。首相の思い入れにとらわれることなく、慎重に考えていく必要がある。

カテゴリー: 社説


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