2017.04.21 08:25

【地震新聞】熊本地震から1年 「車中泊」避難を考える

駐車場に止めた車で夜を過ごす被災者ら(2016年4月20日、熊本市)
駐車場に止めた車で夜を過ごす被災者ら(2016年4月20日、熊本市)
 「前震」「本震」と2度にわたって震度7を観測し、揺れの怖さをまざまざと見せつけた熊本地震。建物の倒壊を恐れ、車の中で避難生活を送る人が続出した。「車中泊」はプライバシーや防犯面で利点がある一方、行政の対応も含め課題は少なくない。熊本地震から1年を機に、改めて「車中泊」を考える。

どの被災者にも物資を
 熊本県西原村の鍼灸(しんきゅう)マッサージ師、山岡縁(ゆかり)さん(42)=高知県安芸市出身=は地震後の数日間、家族6人で車中泊をした。建物内にいる恐怖に加え、「子どもを連れて避難所に行くと周りに迷惑が掛かる」との思いが強かった。

 本震が起こった2016年4月16日未明。6人は身を寄せ合って自宅1階のリビングで寝ていた。そこに、たたき付けられるような揺れがきた。粉々になったガラス製の照明が降りかかってきた。前日2歳になったばかりの四男、春陽ちゃんを毛布でくるんで車に避難した。

 その夜から近くの学校のグラウンドに車を止めて過ごした。その学校は避難所になっていたが、中で生活する気にはならなかった。

 「建物の中は怖い」と痛感したことが一つ。さらに、「男の子4人を連れて入ると迷惑になる。公の場所で寝かせることはできない」と思った。子どもとペットを連れている人たちは皆、車で寝泊まりしていたという。

 知人に頼まれ、車中泊をしていた80代の夫婦をケアしたことがある。軽自動車での車中泊は10日以上続いており、2人とも脚がぱんぱんに膨らみ、血管が浮かび上がっていた。

 「自分たちが建てた家から離れたくない」との思いで、この夫婦は車中泊をしていたと聞いた。山岡さんは「避難所に入らない人にはそれぞれの理由があって、やむを得ない事情もある」と実感するようになった。

 ただ、避難所に入っていない人には支援が届かない実態も目の当たりにした。

 車中泊に限らず、避難所以外で過ごしている人の中には、炊き出しや食料をもらえないケースがあったという。「『あなた、避難所にいる人ですか?』と聞かれたこともある。避難所にいないと被災者として見なされず、支援を受けるのが悪いことのように感じた」という。

 こうした経験を通し、山岡さんは「車中泊の人も含め、どこにいても同じ被災者。きちんと支援が届く態勢が必要」だと訴える。

高知県「場所の把握必要」
 エコノミークラス症候群のリスクが高まるとされ、熊本地震で課題として浮き彫りになった車中泊。では南海トラフ地震で車中泊をする人がいなくなるかと言えば、「ゼロにはならない」との専門家の見方がある。高知県危機管理部も「車中泊する人がいるという前提で対応を考える」とする。

 熊本県が3381人を対象に行ったアンケートでは、最も長く避難した場所を「自動車の中」と答えた人が、避難者2297人のうち半数近い1084人に上った。
 こうした状況も背景に高知県危機管理部は、各地の避難所の運営マニュアルに車中泊対応を明記することを考えている。

 避難所のより良い運営マニュアルを模索するため高知県は10カ所をモデル指定し、一昨年それぞれでマニュアル作りに取り組んだ。

 そのうちの一つ、香南市赤岡町の城山高校のマニュアルには、エコノミークラス症候群への注意喚起▽車で避難生活をする場合はスタッフに申し出る▽食料や物資は配給場所まで取りに来る―など、車中泊のルールを盛り込んだ。車中泊用の駐車スペースを構え、「車避難者名簿」に避難者名と車のナンバー、車種、色を記載してもらうことも決めた。

 熊本地震の被災地に入ったNPO高知市民会議の山崎水紀夫理事は「熊本では避難所やスーパーなどに車中泊の人がいた。高知でもゼロにならない」とした上で、「車中泊をする人が集まる場所を決め、そこに誘導する対応も必要かもしれない」と指摘する。

 危機管理部の堀田幸雄副部長は「基本的には安全に過ごせる避難所を構える。加えて車中泊避難している人を把握し、物資を供給する態勢は必要。車中泊避難の人にも避難所運営の役割をある程度担ってもらうことも考えないといけない」と話している。

エコノミー症候群予防を
 車中泊によるエコノミークラス症候群を防ぐには―。高知大学医学部災害・救急医療学講座の長野修特任教授は「歩くことやふくらはぎのマッサージも有効。発症すると危険が高いので、いかに事前に防ぐかが重要」と指摘する。

 同じ姿勢で長時間座っていると脚の静脈に血の塊(血栓)ができる。それがはがれて肺の血管を詰まらせ、呼吸困難になり突然死につながるのがエコノミークラス症候群。

 脚を動かさない▽水分を取らない▽脚をけがして血管が傷む―ことなどが発症の危険性を高めると長野特任教授。妊娠中や出産後、高齢の人、睡眠薬を飲んだ場合などはさらに注意が必要だといい、むくみや胸の痛み、息苦しさなどの症状があるという。

 防止法について長野特任教授は「足の指を閉じたり開いたり動かすだけでも、静脈に血流が生じて血栓ができにくい」とアドバイスする。

 車を置く場所の近くにトイレを確保する▽避難所内で通路を確保して歩きやすい配置にする▽段ボールベッドを用意する―など、事前の備えや工夫が大事だと呼び掛ける。

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