2018.02.09 08:30

手話にも“土佐弁” 四国のグループが高知など4県「方言」調査

 手話には地域独特の表現が多くある。四国4県の聴覚障害者団体でつくる四国ろうあ連盟と四国手話通訳問題研究会が、4県それぞれの手話を伝え残そうと、収集や記録に取り組んでいる。2017年には1冊目となる四国の方言手話に関する冊子とDVDを発行した。

 手話は明治期以降、各地のろう学校を拠点に発達した。1969年に共通語に当たる「標準手話」ができて普及が進んだが、地域独自の手話は幅広く残る。隣り合う県同士でも驚くほど表現が異なることがあるという。

 高知県聴覚障害者協会によると、手話で「火曜日」は、香川では火打ち石を打つしぐさ、徳島は手をひらひら動かして火の動き、愛媛は唇を指して赤色を表現し、火の動きもする。高知は右手を水平にして喉に数回当てる。「か」と発音する時に息を止めることから生まれた表現という=イラスト参照。

 「金曜日」の場合は、愛媛、高知は指を丸めて「お金」を示して振る。口元を触ってから指を丸める香川と、中指を歯に当てて上げる徳島は、「金歯」を表現しているのではないかという。

 土地土地で着想を得た言葉の表現は、バラエティー豊かだ。

方言手話 残したい伝えたい 「誇りある言語」
 手話の世界にも“方言”がある。せっかくなら手話の土佐弁も話せるようになりませんか。こっちの土佐弁も、よいよまっことえいがちや―。

 高知県聴覚障害者情報センター(高知市越前町2丁目)の室内は、とても静かだ。ぱたぱたというスタッフの足音、書類のこすれる音、外を通る車のエンジン音がよく響く。

 “目で聞いてみる”と、情景は一変する。

 ひらひら、ひらひら。しなやかに指が開いて閉じて、宙に孤を描く。「今日は寒いですねえ」「この前、うちの犬がね…」。集まったろう者やスタッフらは、表情豊かに手をくるくる動かし、にぎやかに“言葉”が室内を飛び交う。

 手や指の動き、表情で情報を伝える手話は、見る言語。耳の聞こえる人が使う「音声日本語」を身ぶり手ぶりに当てはめたものではなく、ろう者が生活の中で独自に生み出した言語だ。

 日本手話研究所(京都市)によると、日本の手話は、明治以降に全国各地にできたろう学校で生まれた。子どもや教員らがコミュニケーションの手段として使っていた身ぶりから発展したという。異なる地域のろう者同士が交流する機会は多くなかった時代で、地域ごとに独特の表現が数多く生まれた。

■「やくざ」!?
 高知県聴覚障害者協会の竹島春美会長(57)は40年ほど前、東京のろう者と何げない雑談に興じていた。家族の話になり、「お母さんは…」と言うと、相手は「何それ?」とけげんそうに首をかしげた。「その時初めて方言があることを知りました」と振り返る。

 高知では、前髪のあたりで右手人さし指をくるりと上向きに回すのが「母」。しかし、全国共通の標準手話では、人さし指で頬に触れた後に、小指を立てる。土佐弁手話とはまったく違っていた。

 竹島さんによると、高知の「母」は、かつて女性の間ではやったパーマのイメージ(日本髪の盛り上がった前髪という説もある)という。標準手話は、人さし指で頬に触れることで「肉親」、小指を上に上げて「目上の女性」を表している。

 ほかにも、魚の「アジ」は、他県ではアジの特徴であるとげのような部分を包丁で取るしぐさで表すのが一般的だが、高知では目の近くで手を2回グーパーと開く。新鮮なアジの目は輝いていることから生まれた表現らしい。

 手話が似ていても意味が異なることもある。

 例えば「朝」。高知では前に向けた手のひらを胸の前で交差させ、弧を描くように開くが、標準手話では「明るい」になる。

 手話通訳の前田真紀さん(58)=高知市一宮南町1丁目=は、進行役を務めた全国会議で冷や汗をかいた思い出を教えてくれた。「質問はありませんか」と伝えたつもりが、参加者は「???」。高知の「質問」を表す動きは、任侠(にんきょう)映画などでおなじみの「お控えなすって!」に似ていた。標準手話では「やくざ」を表すことから「他県の人には『やくざない?』と伝わっていたようで…。混乱されました」と苦笑いする。

 高知の手話には、音声日本語や他地域の手話には言い換えられない表現もある。

 例えば、右手のひらを開いて人さし指を頬に当ててから、拳を前に出す手話。「『なあんだ』『そうなんだ』みたいな納得した時に使いますが、ニュアンスがぴったり当てはまる日本語がない。あえて言うなら、最近若い人が言う『あーね』が近いかも」(前田さん)

手話の土佐弁が飛び交う高知市の県聴覚障害者情報センター
手話の土佐弁が飛び交う高知市の県聴覚障害者情報センター
■災害にも備え
 こうした高知の方言手話は、音声日本語の土佐弁と同じく個性が強いらしい。

四国の方言手話を収録した冊子とDVD「あさいと」
四国の方言手話を収録した冊子とDVD「あさいと」
 「(本州から離れた)島にあるせいなのか、他の地域の人には『変わってるね』と言われます」と竹島さん。「でも、すてきな表現が多い。映像的で見てぱっと分かるし、気持ちが動く温かみがあるんです」と語る。

■差別の歴史も
 かつて手話は「手まね」と呼ばれ、差別の対象になっていた。ろう者は周囲に気付かれないよう最小限の表現で会話していたため、高齢者の手話は動きが速く、独特の特徴があるという。

 一方で竹島さんらによると、手話通訳の不足など改善の必要な課題は多いものの、2006年12月の国連総会で手話を言語と定めた障害者権利条約の採択などで、「手話の地位」は向上したという。

 竹島さんは「自分たちの若いころも、手話をなるだけ人に見られないようにした時代。でも今は自分たちの言語として自信が持てる。(高知の手話にも)誇りを持つようになりました」と話す。

 近年は手話表現の共通化や変化も進んでいる。

 背景の一つは標準手話普及の取り組み。1969年、全日本ろうあ連盟は全国的なろう者同士の交流拡大や手話通訳の需要の高まりを受け、標準手話を定めて収録した本「わたしたちの手話」を発行した。日本手話研究所などによると、これ以降、テキストやテレビを通して標準手話が広まったことなどで、手話の地域性は薄まる傾向にある。

 こうした状況を受けて、四国ろうあ連盟と四国手話通訳問題研究会は、四国の方言手話をまとめようと立ち上がった。四国ろうあ連盟理事長でもある竹島さんは「方言は文献になっていない。方言を使える人がいなくなったら、残したい手話が引き継げなくなると気付いたんです」と話す。

 2016年の熊本地震では、県外の支援者が現地の方言を理解できず、難渋した事例も耳にした。遠からず南海トラフ地震が発生するとされる四国も「人ごとではない」という危機感もあった。

 メンバーは高齢者らへの聞き取りや他県との比較を行い、四国4県で特徴のある手話を調査。2年ほどかけて、2017年春には4県の曜日や家族に関する単語など約30語を収録した冊子「あさいと 四国の手話 第1巻」とDVDを作成した。

 「蔑視されていた暗い歴史もあるが、その中でも各県で自分たちの言語として守ってきた手話の違いを見てもらいたい。方言はまだまだあり、災害時にも役立つと思うので、続編も作っていきたい」と意気込んでいる。

 「あさいと 四国の手話 第1巻」は約3千部作成。県内市町村に無料配布するほか、高知県聴覚障害者協会で1部1080円で販売している。問い合わせは高知県聴覚障害者協会へファクス(088・875・5307)で。

カテゴリー: 社会医療・健康ニュース


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