2017.12.27 08:00

【隠れ残業】労働への価値観見直そう

 違法な長時間労働が常態化し、若い命が失われたのに、問題の本質にメスは入っていないのか。
 広告大手電通グループのことである。新入社員の過労自殺を受け、労働環境の改善に着手した昨年秋以降も、グループ会社の複数の社員が仕事を自宅に持ち帰る「隠れ残業」を余儀なくされていた。
 電通は、午後10時以降は全館消灯にするなど長時間労働の防止を進めている。グループ会社も同様だが、仕事量は減らず、社員は隠れ残業に追い込まれていた。
 刑事責任も問われた電通は10月に罰金刑が確定している。社長は違法残業の再発防止を誓ったはずだ。早急に実態を調べる必要がある。
 伝統的に「モーレツ社員」に支えられてきた多くの企業も人ごとではあるまい。長時間労働防止が単なる退社時間の切り上げに終わっていないだろうか。再点検したい。
 このグループ会社はデジタル分野のコンサルティングなどを手掛ける「電通アイソバー」(東京)。一部社員が加入する労働組合「ブラック企業ユニオン」が共同通信の取材に対し、実態を明らかにした。
 一部社員は多いときで週に数度、仕事を自宅に持ち帰り、未明まで作業していた。基本的にサービス残業だったようだ。
 同社はユニオンに対し、会社として残業の指示はしていないが、複数社員の自宅での深夜業務を管理職が把握していたことを認めている。
 職場での残業を制限した結果、隠れ残業が増える―。これでは長時間労働防止は形骸化し、従業員の心身負担はかえって高まりかねない。
 大都市では、働き方改革により、退社後に喫茶店などで仕事を続ける会社員の増加も問題になっている。過重労働が形を変えて続いているのだとしたら、ゆがんだ改革というしかない。
 電通アイソバーの社員は「体育会的な職場で、みんなで乗り越えようという雰囲気があった」と明かす。企業は働き方改革を現場に丸投げしていないか。従業員の「やる気」に過度に依存していないだろうか。
 人手不足や労働時間短縮に対応する働き方改革は、生産性の向上とセットで論じられている。もちろん、効率的な仕事や従業員の能力アップは欠かせない。
 ただ、それには人材育成の強化や労働環境の改善、業務の見直しといった経営姿勢が必要だ。利益至上主義や過度の成果主義は従業員を疲弊させ、結果的に生産性を低下させかねない。
 国は、残業の上限を「最長でも月100時間未満」とする関連法案の成立を目指している。過労死ラインと重なるため短縮を求める声は強い。
 政治の取り組み強化とともに、企業も労働への古い価値観や風土を見直す必要があろう。
 企業だけではない。教員や医師も長時間労働が深刻になっている。人口減少社会にふさわしい働き方を追求したい。社会全体の課題だ。
カテゴリー: 社説


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