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2016.05.16 07:00

奇跡の笑顔 全盲・重複障害を生きる(44)早くも2号店のニーズ

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みんなが一緒に暮らせる地域をつくる。20年がかりの計画へ山崎理恵さんと音十愛ちゃんは踏み出した

切実な願いに心揺らぐ
 重症児デイ「いっぽ」(高知市朝倉南町)を立ち上げてまだ3カ月もたたない山崎理恵さんが、ひと息つけない二つの悩み。そのうち一つは1年後に差し迫っていた。

 契約児は今、16人。幼児6、小学生4、中学生4、そして高校2年生2人。この2人の卒業後の行き場がないのだ。平日は特別支援学校に通い、土曜に放課後デイで「いっぽ」を使い始めたが、高卒後は制度の対象外となる。

 中でも嶋川勇哉君は脳性まひで寝たきり。気管切開し、緊張と発作が激しく、片時も目が離せない。体重も35キロあり、母親が家で一日中見るのは限界がある。

 こういう成人のために「生活介護」という昼間のサービスがあるが、重症度が高いと簡単には受け入れてくれないのだ。

 「行き場がないと、家にこもって寝たきりの人生です。少しでも外出させて、友だちと会わせてやりたい」と母、清賀(さやか)さん。昨年後半から施設探しを始めたが見つからない。焦る母は、「いっぽ」が「生活介護」を始めることを願っていた。

 実は山崎さんにとっても、これは人ごとでなかった。次女、音十愛ちゃん(盲学校中学部1年)の5年半後の問題なのだ。山崎さんは「生活介護」だけでなく、その先にある夜間預かりの「ショートステイ」や、親離れして暮らす「グループホーム」建設も見据えていた。障害の有無にかかわらずみんなが一緒に生きられる地域づくり。それが20年がかりの目標なのだ。

 障害児の親の切実な悩みは、親亡き後のわが子の生活。できれば施設へ入所せず、住み慣れた地域ですごさせてやりたい。だが、現状では難しい。「自分が死ぬ時は道連れに」と口にする親もいる。

 「5年内に次の施設を」と思っていた山崎さんだが、現実を目の前に心が揺らぎ始めていた。

    ◇  ◇

 そして、その音十愛ちゃんには、「高卒後」とはまた違う悩みが起きていた。「いっぽ」を週に2日、使い始めたのだが、そこで問題が分かったのだ。

 利用児の中で唯一言葉が出るのでムードメーカー的存在。発声は名詞と動詞の3語文程度だが、職員の名前を早口で呼んだり、ひっきりなしに歌のリクエスト。自分も歌うし、拍手もする。他の子が名前を呼ばれた時は、「は~い」と代返。周囲を笑わせる。

 そこまでは良かったのだが、時々、独りで立ち上がり始めたのだ。母は感激の半面、「歩いて他の子に迷惑がかかったら」と焦った。人工呼吸器の子もいる。命にかかわるだけに、「音十愛のような、動ける重症児だけの施設も必要」と感じ始めている。

 そんなわけで、「いっぽ」の2号店、3号店の必要性に駆られている。生活介護施設を建てるなら、残り時間は1年余り。かといって、「いっぽ」はよちよち歩き。まだこれからなのに「あの苦労をもう一度」とは簡単にいかないのだ。

 そんな迷える山崎さんを一笑に付すのは名古屋の師匠、鈴木由夫理事長だった。「大丈夫ですよ。生活介護は、施設が間に合わなければ、『いっぽ』の中で一緒にやればいいんです。一つの施設で放デイと生活介護、両方をやっている所もあるんですから」

 動ける音十愛ちゃんについても、思いがけないことを言った。「何言ってるんですか。動いて当たり前。走ればいいんですよ。他の子にも、ものすごい刺激になるんです。重症児デイのいいところは、職員が1対1対応できること。ちゃんと見てれば大丈夫。成長すれば勝手に親離れしますから。思春期過ぎたら劇的に変わるんですよ。例えば、彼氏ができるとかね。障害がある子の結婚、僕は大賛成です。音十愛ちゃんもきっとそういう時が来ます。それまで、ママに甘えてたらいいんですよ。音十愛ちゃんのために『いっぽ』を造ったんじゃないですか」

 結婚? 実現したら、それこそ奇跡。山崎さんに伝えると、「面白いこと言いますねえ。考えたこともなかった」と受け流したが、あり得ないとは言い切れない。10年後、20年後、もしかしたら…。 

 =おわり

高知のニュース 奇跡の笑顔

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