2017.10.24 09:00

[2017衆院選] 「安倍1強」下の自民に明暗 高知新聞記者座談会

無所属新人と自民前職が激しい一騎打ちを繰り広げた高知2区の開票作業(22日夜、高知市桟橋通2丁目の県民体育館)
無所属新人と自民前職が激しい一騎打ちを繰り広げた高知2区の開票作業(22日夜、高知市桟橋通2丁目の県民体育館)
 「安倍1強政治」の是非が問われた衆院選が終わった。「東西型」になって2回目の高知県内の戦いは、2区で参院からくら替えに挑んだ無所属新人、広田一氏が、前農相の自民党前職、山本有二氏を破り、長く続いてきた自民独占の壁を打ち崩した。一方、今回の衆院選を象徴する「3極対決」の構図となった1区は、元防衛相の自民前職、中谷元氏が、希望の党、共産党の2新人を大差で退けた。県関係の4人が当選した比例代表四国ブロックも含め、激しい攻防が繰り広げられた選挙戦を担当記者の座談会で検証する。


《総括》
問われる野党の存在感

【A】 唐突な「大義なき解散」で始まり、公示前の目まぐるしい野党再編劇、超大型台風が接近中の投票と、異例ずくめの選挙だった。全国では与党が大勝したが、高知では少し違う風が吹いたな。

【D】 無所属の広田が野党を結集した戦いで2区を制し、県内小選挙区で2000年から続いてきた自民独占の壁に風穴をあけた。

【E】 一騎打ちで野党が与党を打ち負かしたのは、県内小選挙区で初めて。高知の選挙史に残る戦いと言っていいだろう。

【C】 立憲民主で比例議席を獲得した武内則男も含め、民進県連出身の2人が当選。昨年の参院選後から不在になっていた県内の野党国会議員が復活した。

【F】 党の分裂がプラスに働いた格好だ。民主、民進の名前を捨てたことで、政権時代の“呪縛”から逃れた面もあるだろう。

【B】 森友、加計学園問題の追及を回避するような首相の安倍晋三の解散判断は全く評価できないが、自民からすれば「結果オーライ」だったのでは。内閣不支持率も高いのに、与党で3分の2の議席を確保したんだから。

【A】 高知では自民のベテラン2人の明暗が分かれたな。1区の中谷は安倍政権への批判をはね返す一方、2区の山本は逆風をもろに受けた。

【E】 投票率は戦後最低だった14年の前回選挙(50・98%)を上回り、51・87%だった。大荒れの天気でまずまずの結果じゃないか?

【C】 台風前に投票を済ませようと、商業施設の期日前投票所に30分待ちの大行列ができる現象も起きた。2区の激戦の構図に関心度も高かったからね。

【D】 いや、前回より伸びたとはいえ、まだ5割。当選者は有権者の半分の審判しか受けていないことになる。これで「白紙委任」を得たと思ってもらっては困る。

【C】 特に憲法問題は慎重に扱うべきだ。与党を含む改憲勢力は3分の2を大きく超え、改憲が政治日程に組み込まれる可能性が高まっている。

【B】 衆院選中の県民世論調査では、「9条を除けば」を含めて50・4%が改憲を容認した。13年以降4回の調査で、過半数になったのは初めてだ。

【F】 今回は北朝鮮の核・ミサイル開発を巡って緊張感が高まる中での選挙でもあった。重視する政策を「安全保障や外交」とした県民が昨年の参院選と比べて3倍近くいた。

【E】 安保、憲法とも与野党の議論が欠かせないテーマだ。これから野党の存在感が問われるよ。

【B】 選挙結果を受けて、野党勢の再々編もありそうだ。広田は無所属で当選した前首相の野田佳彦らとの連携を視野に入れる。巨大与党とどう向き合うのか、注目だ。


《小選挙区》
中谷氏 全市町村制覇の完勝
広田氏 一本化で歴史的勝利

【A】 激戦だった2区から小選挙区の戦いを振り返ろう。

■「純粋無所属」
【B】 広田が山本に2万1千票余りの差をつけた。予想以上の開きではないか。

【F】 18の市町村別にみると、山本が制したのは仁淀川、越知、梼原の3町だけ。こんなぶざまな負け方をするとは。

【E】 自民独自の世論調査では公示前から厳しい判定が出ていたようだ。党本部は高知2区を「重点区」に位置付け、元幹事長で盟友の石破茂も来援し、危機感を訴えた。

【C】 中盤以降は支援県議や市町村議らの動きが活発になり、9期の実績アピールに躍起になった。アベノミクスの効果を地方に波及させるインフラ整備推進も訴え、巻き返した感もあったが。

【A】 投票日の出口調査によると、山本に投票した自民支持層は約76%。公明支持層も約65%にとどまった。与党支持層を引き締めきれなかった。

【D】 8月の農相退任まで地元に入りにくかった。準備不足は明らかだったよ。

【E】 それにしても、地域に取材に入った時の反応の悪さには驚いた。安倍政権への反発、多選批判、TPP承認を巡る失言…。マイナス要素が多過ぎた。

【F】 地域の支持者との間に距離ができていたのでは。本人も事務所も、きめ細かな対応が足りないという声をよく聞いた。

【C】 一方で多くの市町村長が積極支援で前面に立ち、「○○事業を進めるために山本氏に議席を」と呼び掛けた。利益誘導の訴えには違和感もあるが、中央での発言力への期待は高い。

【B】 比例復活で辛うじて当選した山本は、自身の地域活動を「反省する」と殊勝だった。10選の節目を迎え、政治家としてさらに進化するのかな。

【A】 広田の最大の勝因は、野党の候補者一本化で一騎打ちに持ち込んだことだ。

【D】 前回衆院選の旧民主と共産候補の得票は計約7万2千票。そこに2万票近く乗せた。野党の基礎票だけではここまで突き抜けられない。

【C】 仮に民進公認の野党統一候補だったら、これだけの票をたたき出せたか。無所属で退路を断ち、有権者が感情移入しやすい構図をつくった。

【B】 山本陣営は「共産党系無所属」とレッテルを貼り、旧民主の稚拙な政権運営も批判したが、「純粋無所属」をアピールする広田に打ち消される面もあった。自民幹部は「攻め手がない」と苦り切っていたよ。

【E】 TPPへの賛否などを巡る山本への「二枚舌」批判もPRに有効だった。加えて参院議員12年の経験から「即戦力」も訴えた。
 
【B】 防衛政務官など安全保障政策のキャリアは有権者に響いたと思う。自分の経歴を強調し過ぎるきらいはあったけどね。

【C】 “地上戦”では、県議会第2会派「県民の会」や、安倍政権に疑問を持つ保守系の市町村議員ら地域の手勢に厚みがあった。安保法制の廃止など政策面の訴えは分かりやすく、政権批判票の受け皿になる戦略が奏功したね。

【F】 「古いしがらみを断ち切る」と、前知事、橋本大二郎をほうふつとさせるフレーズも連呼していたが。

【B】 保守から共産まで幅広い支持を得たことが“新しいしがらみ”の始まりにならないか。

【A】 県政や市町村政との関係や立ち位置ではバランスも問われるだろう。


■対立軸
【A】 1区の中谷は個人後援会を中心とした強固な支持基盤、本人の知名度の高さを生かし、安倍政権への逆風をはね返した。全市町村制覇の完勝だ。

【D】 首相に苦言を呈した「あいうえお作文」で、言うべきことを言うイメージが好感された。第1次安倍政権が2007年の参院選で大敗した際、安倍に辞任を迫ったのも中谷だったし。

【C】 違憲性が指摘される安保関連法を主導した元防衛相として批判も受ける中、選挙戦の演説で法律の必要性を訴え続けた。説明責任を果たそうとする姿勢自体は評価されていいのでは。

【E】 2区のように対立候補が一本化していれば、公示後に5日間も県外へ応援演説に行くような楽な選挙にはならなかったはずだ。野党の分裂に助けられた面もあるよ。

【B】 希望から出馬した大石宗は、民主県議の当時から保守的なスタンスで、共産との共闘には距離を置いてきた。勝つための共闘よりも政治家の筋を大事にしたのなら、責められる話ではない。

【F】 しかし、安保や憲法などで中谷との対立軸が見えにくかった。本人はすっきり政策を訴えられたのだろうけど、結果に結び付かないのは悩ましいだろうね。
 
【D】 大石は3年間地域を丹念に歩き、前回より7千票余り増やしたが、中谷には遠く及ばなかった。希望の行く末を含め、次の戦いをどうするのか。気になるところだ。
 
【A】 憲法9条堅持や安保法反対などを訴えた共産の松本顕治は、中谷との対立軸がはっきりしていた。

【E】 劇団で鍛えた柔らかい弁舌、誠実さを感じさせるキャラクターは引き付けるものがあったね。

【F】 とはいえ、共産支持層への呼び掛けが中心で、横への広がりが乏しかったよ。共産は1区を全国16の「必勝区」の一つに位置付けていたが、前回より5千票余り減らした。

【C】 共産は候補を取り下げた2区で存在感を示す一方、候補を立てた1区で埋没した。皮肉な結果だ。


勢い増した立民の風 共産 2万票の大幅減
《比例四国》

【A】 比例代表四国ブロック(定数6)は自民3、希望1、公明1、立憲民主1。改選前の民進、日本維新の会の議席が消え、二つの新党が議席を得た形だ。

【E】 でも、希望と立民では勢いが全く違ったね。

【B】 世論調査をみると、希望は公示直後には2議席目が視野に入っていた。ところが、党代表で東京都知事の小池百合子の「排除」発言が影響し、終盤にかけて失速…。

【C】 「排除」発言で逆に風が吹いたのが立民だ。県内得票率は自民の30・66%に次ぐ17・29%。序盤と終盤の世論調査を見比べても、尻上がりに勢いを増していた。

【D】 その追い風で当選したのが立民新人、武内だ。民進時代の仲間、大石と広田が地をはう戦いを繰り広げている中で一気に舞い上がった。強運を感じるね。

【B】 元参院議員の武内は2区を勝ち上がった広田と、民主政権時代の高知選挙区のコンビだ。

【F】 武内は再選を懸けた2013年の参院選で次点の共産候補の後(こう)塵(じん)を拝し、敗れた。立民票には「性急な改憲にブレーキをかけてほしい」という思いが多く込められており、武内にはそのことを十分に自覚して活動してほしい。

【A】 新党に注目が集まる中、公明や共産など「老舗政党」の埋没も言われたが。

【F】 共産の減り方は目立つ。前回の県内得票率20・31%に対し、今回は約2万票も減らして13・44%。野党共闘で2区の候補を降ろしたことも影響したのかな。

【D】 いや、立民に食われたのが大きい。出口調査で首相を「信頼していない」と答えた人の投票先は共産13・3%、立民27・4%。「死に票」にしたくないと、勢いのある立民に投じた人も多かったと思う。

【C】 公明の県内得票率は1・03ポイント減の16・09%。党政調会長の石田祝稔の1議席は死守した。

【B】 公明はいずれも自民の1区中谷、2区山本との自公協力に懸命だった。ただ、公明に投票した自民支持層は17・0%。バーター協力は今回も限定的だった。

【E】 旧高知1区から比例四国に回り、2度目の戦いとなった自民県連会長の福井照は、今回も名簿単独1位。以前から「上位処遇は2回まで」という話も聞く。次回は自公関係がどうなるか。

【A】 社民は微増の5810票。立民の勢いにのみ込まれず、踏ん張ったと言えるのかな。

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