2017.10.13 08:20

[2017衆院選] 在宅医療・介護の現場の声を 現状は家族頼み

訪問診療を行う藤井貴章医師。高齢患者やがん患者の在宅療養を支えている(高知市内)
訪問診療を行う藤井貴章医師。高齢患者やがん患者の在宅療養を支えている(高知市内)
 「住み慣れた地域で暮らし続けられる体制を」との掛け声の下、政府が推し進める在宅医療。患者の意思を尊重するという理念の裏には、入院を在宅に切り替えることで医療費を抑えようという狙いがある。社会保障の中でも子育て支援に注目が集まる今回の衆院選。高齢者の在宅医療や介護に携わる県内の人々は何を思うのか。


 10月上旬の正午すぎ。高知市朝倉乙の藤井クリニック院長、藤井貴章さん(52)は、午前中の診療を終えると、慌ただしく車に乗り込んだ。「今日の訪問は7人。全部回れるかな…」

 リウマチでほぼ寝たきりの女性、独居の男性、かかとの褥瘡(じょくそう)が治らない男性―。高齢患者の自宅を巡り、診察と処置を続けていく。

 脳梗塞で寝たきりの80代男性の自宅では、胃に穴を開けて栄養を送る「胃ろう」のチューブを交換した。「いつも寝てばかりですみません」。男性の横で、妻が小さな体をさらに小さくして謝る。意思表示の難しい男性の体をさすり、「お父さん、先生おいでたよ」と懸命に話し掛ける。

 自宅を後にした藤井さんが言った。

 「老老介護、多いですよ。本人が家で過ごすことを望んでも、介護する家族が倒れて、『もう無理』となるケースもあります」

   ■  ■

 「家で母をみとれてよかった。でも、在宅の介護はとても人には勧められません」
 高知市内の自営業の男性(40)は今年4月、自宅で母親の最期を見送り、17年に及ぶ介護生活を終えた。

 母親は50代で認知症を発症。男性は店を切り盛りしながら、父親(69)と共に介護に当たった。17年のうち10年は付きっきりの毎日。母親の症状が進んで1回の食事に2時間かかるようになると、精神的に追い込まれ、「介護の末に首を絞める気持ち、よく分かった」という。

 手厚い看護や介護が受けられるようになったのは、母親が寝たきりになってから。男性は在宅介護への公的支援が十分でない状況に不満を口にする。

 「国は在宅、在宅と言う割に、現状は家族頼み。身内が誰か1人、24時間かかり切りになってしまう。介護の現場の声を聞いて環境を整えることが先でしょう」

   ■  ■

 高齢化の進展で社会保障費の支出が膨らみ続ける中、政府は医療や介護の支出抑制を図ってきた。2006年度前後からは在宅医療の推進方針を強く打ち出し、在宅関連の診療報酬を増額して入院からの切り替えを促している。

 訪問診療を終えた藤井さんは、こう話した。

 「住み慣れた家での療養は理想的で、入院から在宅へのシフトは理解できます。でも、財源が足りない。今は診療報酬が高いけど、このまま在宅が増えたら将来やっていけなくなると思う」

 今回の衆院選で、安倍晋三首相は2019年10月の消費税増税による増収分を教育無償化などに充てる考えを示し、野党勢は増税の凍結や中止を主張。借金の穴埋めを含めて増収分全てを社会保障に充てるとしていた従来の政府方針はうやむやになっている。

 藤井さんは、税金の取り扱いを巡って人気取りや批判合戦を繰り返す政治に歯がゆさを隠さない。

 「政党はくっついたり離れたりで、高齢者の医療なんて気に留める余裕がないようですが、財源を考えるのが政治家の仕事でしょう。この国の医療・介護をどう持続させるか、もっと腰を据えて取り組んでほしい」



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