2017.10.09 08:25

[2017衆院選] 「安倍政治」を聴く(下)法政大教授・杉田敦氏

杉田敦氏
杉田敦氏
暴走許す仕組みできた
 安倍政権ではたびたび憲法と政策の整合性が問われてきた。民主政治の在り方などを長年研究してきた杉田敦法政大教授(政治学)は「安倍さん個人の憲法観だけの問題ではない」とし、権力の暴走を抑える仕組みが変えられてきた末に、政権が憲法に衝突しているとみる。現状への危機感を聞いた。

 ―安倍政権と憲法との関係をどう受け止めているか。

 「ここまで憲法が問題になる政権は珍しい。憲法によって権力を抑制的に運用するというのが立憲主義の原則。安倍政権は、違憲の安全保障法制を解釈改憲で通し、さまざまな憲法上の疑問がある秘密保護法や『共謀罪』法を強引に可決した。さらに憲法に基づいて要求された臨時国会の開催を3カ月以上も放置し、開いても質問さえさせずに解散した。憲法で最高機関とする国会を無視したことは非常に大きい」

 ―原因は何か。

 「安倍さん個人の憲法観もある。しかし中長期的に見ると、首相が過剰に権限を持つように政治システムを変えてきた延長に、今の状態がある。かつては首相の権力に対して機能したブレーキが働かないようになり、最後のブレーキとして残ったのが憲法。その憲法と衝突しているというのが私の見方だ」

 ―働かなくなったブレーキとは。

 「小選挙区制度の導入で、(公認権限などを握る)政党の中枢に権力が集中するようになった。派閥は弱体化し、党内のブレーキもなくなった。さらに権力集中の流れをつくったのが、民主党政権時代からの『政治主導』への改革だ。政治家が全部決めるんだと言い、いろんな政策決定で官僚を外し、大臣、副大臣らが部屋にこもって決めようとした。この流れで首相の権限を強め、異論が出にくい構造をつくり上げたのが安倍政権だ」

 ―安倍政権が行った政治主導にどんな問題があったか。

 「2014年に内閣人事局をつくり、高級官僚の人事を内閣が行うようにした。かつて政治家は人事を左右できなかったため、官僚は政治家と対抗する力が一定程度あり、『それはおかしい』『違いますよ』と言えた。それが今は、森友・加計(かけ)学園の問題のように、人事権を握る首相らを忖度(そんたく)して動くようになった」

 「安倍政権は、内閣法制局の長官人事にも介入するようになった。かつては内閣法制局や法律に詳しい官僚が憲法解釈と政策の整合性を考え、めちゃくちゃな解釈はさせないと機能してきた。これも人事への介入で官僚が黙るようになった」

 ―「政治主導」は、官僚よりも選挙で選ばれた政治家が優位という考えだが。

 「政治主導という言葉が非常にあいまいに使われた。立法権と行政権が密接な関係にある議院内閣制で、どこをどう強化するかという議論が不十分だった。何となく『政治強化』が言われ、その結果、内閣、首相を強化し過ぎた。今は国会もブレーキとして働いておらず、国民のための仕組みになっていない」

 ―国会軽視も言われている。

 「派閥間や他党との調整を重視して多元的に政策を決めていた55年体制や、民主党政権前のねじれ国会に対するストレスの反動もあり、『決められる政治を』『強いリーダーを』と言われた。決めることだけに特化した結果、時間をかけて国会で熟議するより、強引でもいいから首相の意志を数の力で通せばいいという流れになった。東京や大阪の自治体の長を見ても、熟議して決めるよりトップダウンをよしとするような風潮がある」

 ―今後をどう見る。

 「党内や官僚、国会のブレーキがなくなった結果、仕組みとして首相が独裁的な手法を取れるようになっている。仮に安倍さんが代わっても、今と同じか、それ以上に暴走するリスクはあり続ける。こうした状況下で改憲を進めると、立憲主義はますます危険にさらされるだろう」


杉田敦(すぎた・あつし)氏
 1959年、群馬県出身。東京大学法学部卒。新潟大助教授などを経て96年から現職。著書に「権力論」「政治的思考」など。



ページトップへ