2017.09.14 08:10

共助の地図 障害者と考える震災ハザード(9)重症心身障害 逃げられず、行く場所もない

嶋川勇哉さんの手を握る母の清賀さん(高知市朝倉東町)
嶋川勇哉さんの手を握る母の清賀さん(高知市朝倉東町)
 「生き延びる」を意味する古い土佐の言葉を用い、本社が16年に始めた防災プロジェクト「いのぐ」。その一つとして、障害のある人や家族、支援者の「いのぐ」を考えます。

 高知県に暮らす身体、知的、精神の障害者手帳を持っている人は約5万5千人(16年度末)。私たち記者もまず、彼、彼女たちの言葉、言葉にならない思いをみつめることにしました。

 高知市朝倉東町に住む嶋川勇哉さん(17)は重度の脳性まひ。手足は自由に動かせず、自ら寝返りを打つことも難しい。

 明確に言葉を発することはない。だが、母の清賀さん(43)や祖母、すまこさん(67)が録画したテレビ番組を見ようとすると、勇哉さんは決まってコンコンとせき込むという。

 「僕をほっちょかんとって。そう言いゆうがよね」。清賀さんが、ベッドで寝ている勇哉さんの指を握ってほほ笑みかける。

 もし、地震で家が傾いたら…。「それでも、部屋を離れることはできんと思う。避難所で暮らすことは難しいから…」

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 食事も困難で、胃に開けた穴へ管で栄養剤を送り込む。呼吸をしても十分な酸素を取り込めず、12歳の時、気管を切開。管を入れて気道を確保した。気管周辺には、たんなどがたまる。母と祖母は夜も交代で寄り添い、のど元の穴から管を入れ、吸引する。

 「この子はしんどいとも苦しいとも言えんきね」と清賀さん。「寝返りが打てないので、硬い寝床ではすぐ床ずれができてしまう。菌やほこりによるアレルギーにも弱い」
 持ち出す「命の必需品」は医療的ケアのための電動吸入器にチューブや注射器、人工鼻、消毒液のほか栄養剤や薬…。道路に物が倒れ、車いすの使用も困難が予想される中、体重35キロの勇哉さんを抱えて移動するのは「想像できない」。

 8月。勇哉さんが通う若草養護学校国立高知病院分校で、震災対策の学習会があった。清賀さんは、浸水予測地図で自分たちが暮らす市営住宅に津波が来ないことを確認し、少しほっとしたという。

 ただ、家にとどまるにしても不安は多い。勇哉さんは体温調節がうまくできない。夏場に災害が起き、停電で冷房が止まった場合、熱中症になる恐れがある。薬や栄養剤は4カ月ごとの診察で処方されるため、残り少なくなった時に震災が来ないか、心配だ。

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 県中東部の町。海までは数百メートル。南海トラフ地震の際に予測される津波の最大浸水深は10メートル。この町で、心臓病で酸素吸入が欠かせない7歳の娘を育てる30代の女性。「せっかく教育委員会に掛け合い、地元の小学校に娘が通えてる。引っ越すとなると、また一から交渉しないと」。8時間ほど持つ酸素ボンベが家に4本、学校に1本。車いすの娘を抱き、何本のボンベを背負って高台へ逃げられるか、不安が募る。

 人工呼吸器を着けた6歳の息子を育てる高知市の30代の女性。「呼吸器なしでは命が5分と持たないと言われてます。停電に備え、予備のバッテリーは三つ構えてますし、車から電源が取れるようにもしています。でも、長くは厳しい。早く電源がある場所にたどり着きたい」

 医療的ケアが必要な重症心身障害児者を訪問看護する事業所の看護師が言う。「浸水想定区域に住んでいて、避難も引っ越しも難しい複数の家庭が『その時は、あきらめるしかない』って。つらいです」

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カテゴリー: 社会いのぐ災害・防災


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