2017.07.12 08:00

【「共謀罪」法施行】国民による監視が必要だ

 多くの国民の不安と疑問が解消されることなく「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法が、きのう施行された。
 この「共謀罪」法により、対象となる277の犯罪について2人以上で謀議、計画したと司法機関がみなせば処罰できるようになった。日本の刑法は犯罪実行後の処罰が原則だったが、実行前でも可能となり、刑法体系は大きく変わる。
 通常国会最終盤で、安倍政権は参院での委員会採決を省き、本会議採決を強行した。法に基づくとはいえ奇手で成立させたものだ。
 国会閉会後の記者会見で、首相は「国民的な理解を得ることはできていない」と認めている。「一つ一つ丁寧に説明する努力を積み重ねる」と明言もした。国民への約束といっていいだろう。
 それにもかかわらず、首相から法律について納得できる説明は聞かれない。数の力で押し切った後、「丁寧な説明」の必要性に言及する姿は特定秘密保護法、安全保障関連法の時にもみられた。
 国会審議では、法律を適用する対象は組織的犯罪集団に限定する、との答弁が繰り返された。首相も「一般の方が処罰されることはない」と再三、力説した。だが組織的犯罪集団の定義は曖昧なままだ。
 首相がどれほど力説しても根拠を示しているわけではない。それでは口約束にすぎない。加えて「丁寧な説明」と述べながら理解を得ようとする姿勢はうかがえない。
 「善良な国民に対して何ら刺激を与えるものではない」―。1925年、帝国議会貴族院で治安維持法を巡って、時の司法大臣はそう答弁した。ところが、後になって、法で当初想定された適用対象は広げられ、思想弾圧が強められていった。時代が違うとしても、この歴史を忘れてはなるまい。
 「共謀罪」法の組織的犯罪集団の定義が曖昧な以上、判断は捜査当局に委ねられる。犯行の謀議や計画の有無を内偵するため、市民を監視する手段が広げられ、捜査権の乱用につながらないだろうか。
 捜査当局には今のところ「実際に使えるのは暴力団や薬物密売組織だろう」といった見方があるという。ただ監視強化への歯止め策はない。新たな捜査方法が導入されないかなど、恐れは拭えない。
 気掛かりなのは、不安が先に立って一般の人々の間に、政権への批判やデモなどへの参加をためらう空気が出ることだ。社会を萎縮させ、表現や言論の自由に影響を及ぼすことがあってはならない。
 先の東京都議選で自民党は惨敗した。その要因の一つに、「共謀罪」法について説明を怠り、強権的な手法を続ける政権への抗議があるとみるのが自然だろう。
 法律は適正に運用されているか、適用対象は広げられていないか―。民主主義と人権を守るためにも、国民の側に不断の監視を続ける姿勢が欠かせない。
カテゴリー: 社説


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