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2016.05.16 08:25

奇跡の笑顔 全盲・重複障害を生きる(27)新たな視点で幸せ追求

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重症児の幸せを新たな切り口で追求する「ふれ愛名古屋」の鈴木由夫理事長(愛知県名古屋市西区、重症児デイ「mini」)

■ライバル増やしましょう■
 東京シンポジウムの取材は私にとっても正解だった。山崎理恵さん(50)=高知市=の取り組みが無謀でないと分かったからだ。重症児在宅ケアの新しい波を知り、そこにカリスマのような理事長がいることも分かった。

 それまで重症児主体のデイサービス事業所は、医療系の人材が中心でないと始まらないと思っていただけに新鮮。お願いするしかなかった母親が、自ら事業家になるとは想像外だった。

 ただ、よく考えると重症児の母親は看護、介護の“プロ”だ。その人材活用に目を付けた「ふれ愛名古屋」の鈴木由夫(よしお)理事長(66)はさすが、マーケティングの元プロだった。

 断っておくが、鈴木理事長の目的は「金もうけ」ではない。障害児の親の最大の不安は、親亡き後のわが子の明日。自分1人では生きていけない子たちが、地域で、笑顔で生きられるための仕組みを整えることだ。理事長の頭の中はゼロから創り上げたノウハウが満載だった。

 例えば、山崎さんがこれから造る放課後等デイサービス(放デイ)施設。「9月オープン」は鈴木さんのアドバイスだ。7、8月のスタートは危険だという。

 「夏休み中は戦場なんです。朝から晩まで預かるから、いきなりフル回転。研修や、スタッフ同士の気心が知れる時間もないので、急に長時間やると心身が参ったり、事故も起きやすくなるんですよ」

 事業所開設についても、最初は学齢期対象の放デイからを勧める。定員5人と小規模なので、スタッフ集めと経費のリスクが小さい。平日は午後からの利用が主体なので、午前中を研修や打ち合わせに使うことができ、人材育成のチャンスという。放デイで力を付けた後に、未就学児や高校卒業後の障害者を朝から受け入れる施設を造れば無理がないのだ。

 ふれ愛名古屋は今、放デイを中心に11の事業所を運営。近々、診療所や医療型ショートステイ、グループホームも造る予定。そうやって、親亡き後も地域生活を可能にしていくという。

 すごい勢いで事業拡大する理由は、名古屋が230万人の巨大都市ゆえだ。名古屋市内二つの特別支援学校には肢体不自由児が約440人も在籍する。

 「放デイを使いたいお母さんは多いんですよ。いくら造っても間に合わない。だから、あちこちに『造りませんか』と呼び掛けたんです。あえて、ライバルを増やしてきたんです」

 普通は利用者の取り合いを避けるのだが、逆だった。「競争が始まると、顧客満足のために努力するでしょ。いい事業所がたくさんできるんです。そうなると、お母さんたちは選択できる。つまり、事業者にもお母さんにもプラスなんですよ。だったらもっと、ライバルを増やしましょうということで今、日本中に広げているんです」

 というわけで、鈴木理事長は2年半前、一般社団法人「全国重症児デイ・ネットワーク」を立ち上げた。加盟事業所はどんどん増えて170。小規模で人材育成もままならない放デイが、つながることで情報交換、研修し、レベルアップを図るのだ。山崎さんが出席した東京シンポもその一環だった。

 死の淵からよみがえった事業家は、天職だと言わんばかりにやりがいを見いだしていた。

高知のニュース 奇跡の笑顔

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