2017.05.29 08:10

【国連報告者】人権軽視への疑念示す

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案を巡り、国連の特別報告者から懸念を示し、質問する書簡が日本政府に送られた。これに対して政府は抗議文を返し、反論を受ける事態となっている。
 書簡を送ったのはジョセフ・ケナタッチ氏。マルタ出身で2015年に国連人権理事会から任命された。プライバシー権の報告者だ。
 特別報告者とは、政府や組織から独立した資格で、専門の立場から特定の国やテーマ別に人権の状況を調査、監視し、その結果を国連人権理事会に報告する。
 法案については人権侵害の危険性をはらむことがこれまで再三、指摘されている。政府は適用対象を「組織的犯罪集団」に限定するというものの、その判断基準や捜査拡大への歯止め策は曖昧なままだ。
 ケナタッチ氏は安倍首相宛ての書簡で、「プライバシーに関する権利と表現の自由への過度な制限につながる可能性がある」「『組織的犯罪集団』の定義は漠然としている」などと指摘した。
 その上で、監視が強化されるのに適切なプライバシー保護策を導入する具体的条文や規定がない▽監視活動を事前に許可する独立した第三者機関の設置が想定されていない―などの点を挙げ、回答を要望した。
 法案を専門的な立場から考慮し、懸念を示した内容といえる。
 ところが政府は書簡の内容が「明らかに不適切」として抗議した。菅官房長官はこの後の記者会見で、法案が国連の国際組織犯罪防止条約締結のためだとし、「プライバシーや表現の自由を制約する恣意(しい)的運用がなされることは全くない」とした。
 だが、ケナタッチ氏が求めているのは根拠のない弁明ではなく、人権やプライバシーを保護するための法案への明確な規定である。そこに警告を鳴らしたと理解すべきだ。人権を軽視するかのような日本政府への疑念と受け取っていい。
 政府からの抗議文に氏は「深刻な欠陥のある法案を拙速に押し通すことは正当化できない」と反論した。
 政府は昨年も国連の特別報告者から指摘を受けた。言論や表現の自由が守られているかを調べた米国のデービッド・ケイ氏は、特定秘密保護法に関して、特定秘密の定義が曖昧▽法の適用を監視する独立専門機関の設置が必要―と警告した。
 ケナタッチ氏からの指摘と重なる点に注目せざるを得ない。人権や知る権利を制限しようとするのに、特定秘密の定義は曖昧で、権力を監視する仕組みにも欠けている。こちらも政府は聞く耳を持たないかのような姿勢だ。
 沖縄の米軍普天間飛行場の移設を巡る抗議活動に絡んだ長期拘束でも、国連特別報告者ら4人が政府に是正を求めていたことが判明した。
 専門家の厳しい目を政府は誠実に受け止めなければならない。問われているのは、批判、懸念、疑問などに対し、丁寧に説明して理解を得ようとする姿勢である。
カテゴリー: 社説


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