2017.05.24 08:10

【「共謀罪」参院へ】捜査権乱用の歯止めない

 人権侵害の危険性をはらむ「共謀罪」法案の組織犯罪処罰法改正案が衆院本会議で、与党や日本維新の会などの賛成多数で可決された。審議は参院に移る。
 与党は委員会に続き、野党側の反対を振り切って可決に踏み切った。審議を重ねるほどに疑義が膨らむ中で、数の力に任せた再三の強行は言論の府を踏みにじる。
 テロや暴力団対策を名目にした法案は、犯罪の計画に合意したと捜査機関が判断すれば、全員を処罰できる。思想や内心の自由を保障し、実行行為を対象としてきた戦後刑法の基本を覆す。
 政府は対象を「組織的犯罪集団」に限定し「一般の人は対象にならない」と強調する。下見などの「準備行為」がなければ適用しないともする。だが、その判断基準も、捜査拡大への歯止め策も曖昧だ。
 現行法で対応し切れない準備行為として、法務省は「重大犯罪を計画し、そのために使う物品の一部を入手」などを挙げる。その考え方を、過去に県内で実際にあった住民の抗議行動に照らすと―。
 ある住宅地で、近くの公道と住宅地内をつなぐ道路の新設を行政機関が決めた。住民は「交通量が増え、平穏な環境が壊れる」と反対した。行政側は聞き入れず、工事を強行しようとした。このため、住民有志が集まり、各家のマイカーを道路脇に並べ、反対の思いをアピールしようと申し合わせた。
 ここからは仮定の話。
 その前夜、反対住民の1人が近くのガソリンスタンドへ。車への給油を終えて運転席に乗り込もうとした時、突然現れた捜査員に「あなたは威力による工事妨害の計画に合意した」と同行を求められた。その給油は翌朝からの家族とのドライブのためだったのに…。
 安全な暮らしを求め、正当な権利を訴えた住民らが組織的犯罪集団とされ、ドライブのための給油が準備行為とみなされる。共謀罪が引き起こす恣意(しい)的捜査、監視の際限ない拡大を想起させないか。
 適用罪は277と幅広く、森林法や種の保存法などまで含む。政府はテロの資金源につながると説明するが、摘発のためのこじつけや不当な任意捜査、別件逮捕を誘発しかねない。当初案の676から半分以下へ減らしたこと自体が、選定根拠の薄弱さを認めたも同じだ。
 衆院委員会での法案可決後に共同通信社が実施した全国世論調査で、法案への賛否は分かれるものの、4分の3強の国民が政府の説明を不十分とした。共謀罪への不安や、与党の強行姿勢、拙速な審議への批判の強さも裏付けた。
 テロ対策そのものを否定しているのではない。現行法で対応可能ではないのか。捜査や監視の拡大の抑止はどう担保されるのか。疑問、不安は増すばかりだ。参院で徹底解明を求める。世論調査で国民の56%は今国会での共謀罪成立は「必要ない」と答えている。

カテゴリー: 社説


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