2017.05.22 08:10

【精神福祉法改正】監視強化の不安拭えず

 精神疾患で措置入院となった患者の支援強化を柱とする精神保健福祉法改正案が参院で可決された。与党は衆院審議を経て今国会での成立を目指す。
 昨年7月に相模原市の知的障害者施設で起きた入所者殺傷事件を受けた改正で、犯罪防止の側面が色濃い。障害者らの当事者団体や野党は「治安維持を優先した警察監視を強める」と反対を訴える。
 施設を襲った元職員は事件前に同市が措置入院させていた。「大麻精神病」「妄想性障害」と診断された。その後、症状が和らいだとして退院した後、凶行に走った。
 退院後の行政や病院の情報共有や連携の不備、継続的な医療支援の不十分さなどが指摘された。厚生労働省の有識者検討チームも昨年の再発防止策の報告書で、退院後の対策強化を提言した。
 改正法案も退院後の患者支援に重点を置く。現行法は、退院後の患者の生活支援や行政の対応義務を明確に規定していない。
 具体案は、都道府県や政令市は措置入院中から「退院後支援計画」を策定し、退院後は自治体に計画に基づく相談指導を義務付ける。患者の転居先自治体への計画内容の通知も定める。
 凄惨(せいさん)な事件の検証を踏まえた見直しで、地域支援の充実を目指す方向性は評価されよう。障害者の人権擁護や、社会参加の促進という障害者支援の本旨に沿った制度設計でなければならない。
 改正法案も目的を「病状の改善など健康の保持と増進」と明記。人権尊重や退院後の地域生活への移行促進をうたう。
 だが、厚労省は法案の説明資料で「改正の趣旨」を「同様の事件が発生しないよう」と記載し、当事者団体や野党が猛反発。委員会審議の途中で削除、厚労相が陳謝した。
 支援計画を策定するために都道府県などに設置する地域協議会のメンバーに、障害者団体や家族会などに加え警察が入ることにも懸念が向けられる。精神障害者らに対する「監視強化」への危惧だ。患者らが監視におびえ、治療を受けなくなる恐れも考えられる。
 新たな患者支援の仕組みを整備すること自体にも、日本精神神経学会はその充実を歓迎しながらも「患者管理、リスク管理」が目的化しかねない危険性へ留意を訴える。自治体や地域関係者への負担が増すことも想定され、国にはその手だても求められよう。
 委員会審議で厚労省は「犯罪防止目的ではない」と釈明したが、法案への不安、不信は拭えていない。野党が「法案出し直し」を求める中で与党は採決に踏み切った。
 精神疾患の患者当人が当惑し、障害者に日々寄り添い、地域生活をサポートしている家族や支援者を疑心暗鬼にさせている。そんな法律に実効性を期待できるだろうか。政府、与党には、衆院審議で修正も視野に入れた丁寧な議論を求める。

カテゴリー: 社説


ページトップへ