安保法制 関連記事

安保法案は何を変えるか

15年9月19日付・朝刊

今の政治は「多数派の専制」 山口二郎・法政大教授が高知市へ

小選挙区導入が一因 民意と議席数にずれ

山口二郎氏

 山口二郎・法政大教授(57)=政治学=が9月18日、講演のために訪れた高知市内で高知新聞の取材に応じ、憲法違反と指摘される安全保障関連法案を数の力で押し通す政治は「選挙制度に一因がある」と述べた。山口氏は1990年ごろに巻き起こった「政治改革」論議で選挙制度の変更を主張し、その後は民主党のブレーン的存在でもあった。現在は「立憲デモクラシーの会」共同代表として安全保障関連法案に反対している。

 今の政治は、選挙で勝ちさえすれば、あとはやりたい放題という「多数派の専制」になってしまった。

 自民党の昨年衆院選の公約は経済中心で、集団的自衛権は前面に出していない。国民への「説明と同意」もなく反対の声も多いのに、数の力で安保法案を通そうとする。民主主義を逸脱した行為だ。

 ただ、こうなった理由の一つは現行の選挙制度にある。

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 1996年の衆院選からの小選挙区制導入は、自民党本部への中央集権をもたらした。党公認がないと選挙に出られず、各候補の政治活動は政党助成金頼み。執行部に逆らえなくなった。

 今月の自民党総裁選では、対抗馬が出なかった。いまや自民党全体が「この道しかない」という改憲路線であり、リベラル派は絶滅危惧種。昔の自民党では考えられないことだ。

 改革論議の起きた1990年ごろは、冷戦とバブルが崩壊し、国も高齢化など難題を抱えていた。官僚の縦割りを打破し、政治が広い視野で主導するには選挙制度を変える必要があると、私は小選挙区導入を支持した。

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 小選挙区の本質は、第一党に議席のボーナスを与えて安定的な政権にし、思い切って公約を進めること。2009年には民主党への政権交代も起きた。

 一方で現行制度は死票が多く、得票率と議席の間に隔たりもある。2015年12月の衆院選で自民党の得票率(小選挙区)は5割未満だが、議席占有率は7割を超す。

 当然だが、その指導者は民主主義や立憲主義、法の支配など「政治の基本」は理解していることが大前提。そこが楽観的だった。まさか、これほど基本を理解しないリーダーが現れ、政治主導で憲法原理を転換させるとは…。

 改革の狙いが裏目に出た。「見立てが甘い」と言われれば謝るほかない。

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 今の事態を招いたもう一つの理由は、民主党政権の失敗。内紛続きで自己崩壊し、幻滅した民意は、安定と継続を求め自民党支持につながった。世論調査では、今も民主党への失望が表れており、安保法案反対の受け皿になりきれていない。野党再編も必要ではないか。

 私自身、選挙制度を変えた方がいいと思うけど、衆院の多数派は現行制度で選ばれた人たち。再変更は期待できない。

 ただ、安保法案について、世論調査では「説明不足」と回答する人が多数を占める。学生など若い人の新しい反対運動も出てきた。今回のことで平和や憲法をまじめに考える人が増えたことに希望を感じる。


 山口二郎氏(やまぐち・じろう) 東京大学卒業後、北海道大学教授などを経て、2014年から現職。著書に「政権交代とは何だったのか」(岩波書店)など。岡山県出身。


  【写真】「今の政治は『多数派の専制』になってしまった」と話す山口二郎氏(高知新聞社)


 
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