安保法制 関連記事

安保法案は何を変えるか

15年9月5日付・朝刊

日本も経済的徴兵制に? 

ジャーナリスト・堤さんに聞く

伊藤真さん

貧困層が支える米の戦争「格差広げるだけでいい」

   安全保障関連法ができると、「徴兵制になる」という声がある。これに対し、2001年の米中枢同時テロ後の米国を取材するジャーナリストの堤未果さん(44)は「米国の戦争は徴兵制など必要としていない」と言う。「格差を広げるだけで貧困層が戦場に向かう。『経済的徴兵制』が今の戦争を支えている」――。日本が軍事協力を深めようとする米国の姿を聞いた。

■「自ら」入隊

 「対テロ戦争」を始めた米国では国防費が増大し、代わりに社会保障費と教育費が切り下げられました。国民皆保険制度がもともとなく、非正規労働者の多い米国では、毎年数十万人が医療費を払えず破産し、格差が広がっています。

 テロ翌年には教育改革法ができ、共通学力テストを義務化し、成績のいい学校には予算を出し、悪い学校は削減しました。大学にも競争原理が導入され、授業料は国立も私立も上がりました。

 医療保険に入れない子、学資ローンを返済できない子が急増し、そこに手を差し出したのが米軍です。

 軍に入れば学費を出してくれ、入隊中に職業訓練が受けられ、兵士用の医療保険に加入できる―。そんな特典で軍のリクルーターが勧誘し、子どもたちは次々と「自ら」軍に入りました。子どもの個人情報が学校から軍に流れる仕組みもできています。

■戦争民営化

 21世紀の戦争は「民営化された戦争」なのです。

 ブラックウオーター社やハリバートン社のように「傭兵(ようへい)」を派遣する民間の戦争請負会社は増えているし、さらに言うと、戦争はドンパチだけじゃありません。

 ブッシュ前政権で、兵士の食料や防弾チョッキなどの装備、資機材、警備、運輸、医療などが次々と民間委託されました。各業界が網の目のように戦争に関わり、戦争が長引けば長引くほど、この市場は巨大化していくのです。

 こうした多国籍企業や財界はいまや米国の政策決定に深く関わっています。だからオバマ政権になっても、戦争も医療も大企業の一人勝ち体制は変わらない。

 米国のある国会議員は私に言いました。「議会制民主主義は『紙くず』になった」と。

■破綻モデル

 今の日本はどうでしょうか。

 小泉政権下で社会保障費はカットされ、非正規雇用が増え、格差が広がりました。大卒者で奨学金の返済を延滞している数は30万人を超えています。

 2014年、文部科学省の有識者会議で、経済同友会の幹部が奨学金滞納者について「警察庁や防衛省でインターンをやったらどうか」と提案しています。

 まさに米国と同じ道を着々と進んでいる。こうした米国型政策がどう決まっていくかご存じですか?

 大きな影響力を持つのが「経済財政諮問会議」という、選挙で選ばれてもいない大企業や財界中心の民間議員の存在。この会議が提案し、政府が閣議決定して、国会の数の力で速やかに成立する―という3段階方式です。

 例えば、5月に成立した「医療保険制度改革関連法」は、未承認薬を保険外で使う規制を緩めました。財界主導で医療や労働政策の骨子が作られ、最後の防波堤である「国民皆保険制度」が崩されようとしている。

 「戦争に行きたくない」と安保法制に反対する世論が高まっていますが、足元では「経済的徴兵制」の環境が着々と整えられています。

 米国で取材した若者たちは奨学金返済などに困って入隊し、イラクやアフガニスタンに派遣され、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患っていました。帰還兵は自殺率も高い。戦争で関連産業の株価が一時的に上がっても、社会の抱える負のコストは膨大なのです。

 米国は、暴走した資本主義の「破綻モデル」を私たちに示している。同じ道に引きずられてはなりません。

つつみ・みか ニューヨーク市立大学大学院から国連婦人開発基金(UNIFEM)などを経て、証券会社勤務中に米中枢同時テロに遭遇した。ジャーナリスト転身後、「ルポ 貧困大国アメリカ」(岩波書店)で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。ほかに「沈みゆく大国アメリカ〈逃げ切れ!日本の医療〉」(集英社)など。東京都出身。

【写真】堤未果さん


 
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