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安保法案は何を変えるか

15年8月30日付・朝刊

憲法は国民が命じる設計図 

高知市で講演した伊藤弁護士

伊藤真さん

「私たちは守らせる側」

   多くの法律家が「違憲」と断じる安全保障関連法案を政府・与党が「合憲」とし、成立を図る―。ある有権者は「民主主義で選ばれた人たちだからいい」と言い、ある人は「選挙で勝てば何でもやるのか」と言う。民主主義と憲法が対立しているかのような状況を、どう整理したらいいのか? 法を教える「伊藤塾」塾長で弁護士の伊藤真さん(57)はこのほど高知市を訪れ、講演で「そもそも憲法とは何かを知ってますか」と投げ掛けた。

   中高生に「日本の国の絵を描いてごらん」と言うと、多くの子どもは日本列島の地図を描きます。でも、これって国土を描いているだけなんですね。

 日本は国土が昔からほぼ変わらず、日本国が歴史で存在し続けてきた。所与の、与えられるものとして国を意識しがちです。

 でも欧州などでは、王国や帝国とか、いろんな国ができては消え、領土も変わった。民族も出たり入ったりで、その時々にその地にいる人々が国をつくり上げてきました。  国とは、われわれ国民が主体となり、意識してつくるものです。これを国民主権と言います。そしてその設計図が、憲法です。

 ■「個人主義」とは

 憲法前文は冒頭、主語を「日本国民は」とし、述語で「この憲法を確定する」とし、まず国民がつくった憲法だと言っています。

 では、何のためにつくったのでしょうか。

 戦前の大日本帝国憲法は、「国民」ではなく、「臣民」を使いました。人の権利は天皇が恩恵として与え、法律の範囲内でしか保障されなかった。

 現憲法はそれを、人間として当然保障される人権を誰もが等しく持つ国にしよう、と変えました。お国のために人がいるのでなく、一人一人を大切に幸せにすることで、結果として国も発展するという考え方です。

 「個人の尊重」「個人主義」を「利己主義」と勘違いする人がいる。正反対です。憲法は、他者も個人として尊重しよう、多様性を認めて共生しよう、と。これが人権です。

 ■守るのは誰?

 人権を守る目的なので、国民の義務は憲法に三つだけです。国民に義務を課し、自由を制限するのは法律の仕事だからです。

 憲法99条は「議員や公務員は憲法を守る義務を負う」と定めており、国民に守れとは一言も言ってません。

 なぜなら国民は、政治家や官僚、自治体の首長に憲法を守らせる側に居るからです。憲法の本質は国民を縛る法律と全く逆なんです。憲法の価値観を実現するため、国民が主体的に行動し、政治家に仕事をさせましょう、ということです。

 国民の命と暮らしを守るのが政治家で、それを憲法にあるやり方でしてくださいと、命令するのが私たち。だから憲法を知らないと命令しようがありません。逆に好き勝手やりたい政治家は、国民が憲法を知らない方がいい、となります。

 ■人間は不完全

 なぜ憲法で政治を縛るのでしょうか。人間は不完全だからです。

 憲法で権力を縛る考えは、800年前に英国で生まれました。国王の横暴を止めるための憲章、マグナカルタです。この考えを「古い」と言う人もいますが、とんでもない。条文のいくつかは今の英国憲法も使ってます。人間の弱さ、不完全性は時代、民族を超えて変わりません。

 多数派の意見が常に正しいわけではありません。私たちは情報操作に惑わされたり、雰囲気に流されたり、目先の利益に目を奪われたりする。人間だからです。

 有名な例がナチスです。当時のドイツは失業者であふれかえっていた。ヒトラーは公共事業の拡大でそれを解消し、国民は熱狂した。国威をあおられ、やがて戦争に駆り立てられます。

 ヒトラーは「わが闘争」で書いています。「大衆の理解力は小さいが、忘却力は大きい」と。バランスなんか取らず、一方的なことを言い続ければいいんだ、と。

 民主主義は大切ですが、過ちを犯すことがある。多数派でも奪ってはいけない価値観がある。だからみんなが冷静な時に憲法に書きとめておこう、ということです。

  ■違う価値尊重

 歴代内閣が違憲と言い続けてきた集団的自衛権の行使について、安倍政権は「明白な危険がある場合」などと「事態」を限定するから合憲なんだと言っています。

 では、「事態」を判断するのは誰か。政権は「政府が総合的に判断する」と。その時々の政権が判断すると言った瞬間、憲法的には何の歯止めにもなってないわけです。

 自分と異なる人を受け入れ、共生社会を目指す「個人の尊重」。これを国家レベルにしたのが9条です。

 人類は多様性ゆえに争います。価値観が違うからと言って、その国を力で排斥するのではなく、共通点を見いだし、何とか話し合い、折り合いをつけてやっていこうとする。「一国平和主義」とは対極の考えです。

 この国をどうしたいのか。今どこにいるのか。憲法を考え、自立した市民として主体的に行動することが求められています。

【写真】伊藤真さん


 
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