安保法制 関連記事

安保法案は何を変えるか

15年7月21日付・朝刊

「権力は暴走する」自覚を 青井未帆・学習院大教授に聞く

日本全体が兵站基地に

国民を戦時体制組み込み

青井未帆・学習院大教授

 集団的自衛権の行使を盛り込んだ安全保障関連法案が衆院を通過した。「立憲主義に反する」「戦争法案だ」といった反対運動が全国で強まる中、政府・与党はなぜ強硬姿勢を崩さないのか。憲法学者らによる「立憲デモクラシーの会」の呼び掛け人の一人で、学習院大教授の青井未帆さん(42)は「権力はそもそも暴走しがちな性質を持つと自覚する必要がある」と強調する。青井さんの発言に東京で耳を傾けた。 

 戦争をしない、戦力も交戦権も持たない、という憲法では、武力行使は「できない」が原則です。その上で、日本が武力攻撃を受けた際に例外として行使できる、としてきたのが従来の政府解釈でした。

 例外が例外と言えるのは、何が例外かはっきりしているときに限られます。「わが国が武力攻撃を受けた際」という従来解釈は例外にとどまってきたと言えるでしょう。

 しかし、他国防衛を意味する集団的自衛権は、何が「例外」なのか、明らかではありません。米軍に弾薬を届けて「武力行使じゃない」なんてあり得ません。戦争の当事者になるわけですし、国際法上も合法的な攻撃対象になります。

 今では、どんな立場の憲法学者もこの法案を「正当化できない」という一点でほぼ集約されています。

  ■官僚の対米追随

 4月に合意された日米防衛協力指針(ガイドライン)には、「地方公共団体や民間の力を借りる」と書いてあります。安保法が成立すれば、ここに足を踏み入れ、集団的自衛権に絡めた有事の枠組み作りが進むはずです。

 日本が巨大な「兵站(へいたん=補給)基地」になる危険があります。米軍の戦争を後方支援するために全て動員する。「防災」名目の訓練が各地で増える。地方公共団体や民間企業、国民は戦闘に直接関わらなくても、戦争を遂行できる体制に組み込まれていくでしょう。

 動員には国民管理が必要です。マイナンバー制度も始まりますよね? 「国民の管理が第一」という発想。まさに、安倍晋三首相のおじいさん(岸信介元首相)が旧満州でおやりになった、計画的国家づくりですね。

 ただ、安保法案は安倍首相の意向だけではできません。官僚内にも「もう日本は対米追従しかない」と決断したグループがいるということでしょう。

 ゆっくり、私たちの日常に組み込まれていく。ゆでガエルの例えと同じで、あとで「ああ、あの夏が…」となりかねません。

 ■現実はもう違う

 今、起きているのは政治と法の対立です。学生と話していても、「政治は自ら縛られることを嫌う」という原則があまり理解されておらず、驚きます。

 政治は最初に目的があり、次にその実現に向けた手段を考えるため、法が邪魔な場合は法を乗り越えようとします。そもそも、暴走の危険がある領域なのです。その政治をコントロールする考え方が、「政治を憲法に従わせる」という立憲主義。歴史の積み重ねから私たちが学んだ知識なのです。

 法とは、人に従わせる力を持つ権威です。「守らないといけない」と思われないと、権威は発生しません。

 私たちは日々の生活に忙しく、政治のことを考える暇はなかなかない。それでも「政治はおかしなことにはなるまい」と思ってきた人が多いのは、日本の政治体制を信頼してきたからでしょう。

 しかし、内閣法制局の権威は大いに揺らいだ。衆院論戦も緊張感がなく、討議機関というより採決の際の「投票マシン」でした。世界展開するという自衛隊をこんな政治でコントロールできるのか。

 朝鮮戦争やベトナム戦争では、沖縄から米軍機が出撃していきました。「日本は70年間戦争がなかった」と無邪気には言えません。基地移設をめぐる問題も、沖縄とほかの地域では温度差があります。それらは多くの人にとって「人ごと」だったかもしれません。現実はもう違います。

  あおい・みほ 信州大学准教授、成城大学准教授などを経て、現在は学習院大学大学院法務研究科教授(憲法学)。著書に「憲法を守るのは誰か」(幻冬舎)、「国家安全保障基本法批判」(岩波書店)など。

 

【発言録】私は総理/信念あれば

  ■安倍晋三首相
 「われわれが提出する法律についての説明は全く正しいと思いますよ。私は総理大臣なんですから」(5月20日、国会の党首討論)
 「(安保法案は)国民に十分な理解を得られていない」(7月15日、衆院平和安全法制特別委員会)
 「批判に耳を傾けつつ、確固たる信念があればしっかり政策を前に進めていく必要がある」(7月15日、衆院平和安全法制特別委員会)

 ■高村正彦・自民党副総裁
 「支持率を犠牲にしてでも、国民のために必要なことはやってきたのがわが党の誇るべき歴史だ」(19日、NHK番組。安保法案の衆院通過後、報道各社の世論調査で安倍内閣の支持率が落ち、不支持が支持を上回る状況になったことや、安保法案に賛成する国民が少ないことなどを念頭に置いての発言)


 
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