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安保法案は何を変えるか

15年7月9日付・朝刊

「法案にリアリズムなし」 安保法案に元自衛隊員ら反発

衆院憲法審査会が開いた公聴会

 国会で審議中の安全保障関連法案は、自衛隊の海外活動を飛躍的に拡大させる内容になっている。自衛隊員の危険性は高まるのか。国会議員の間では「増える」「いや、増えない」という言葉だけが飛び交い、深まったとは言い難い。実際のところは、どうなのだろう。

 元陸上自衛隊の3等陸曹で、レンジャー隊員だった井筒高雄さん(45)=東京都=は「活動が百八十度変わり、死ぬリスクが飛躍的に高まるでしょう」と断言する。

 高校を卒業した1988年に入隊。21歳の時、上司に勧められ「陸自で一番過酷」と言われるレンジャー教育を受けた。

 マシンガンや爆弾を仕掛ける装置など重さ20キロの荷物を担いだまま、山の獣道を50キロ歩いたり、炎天下を20キロ走ったりした。ヘビを生きたまま手でさばいて食べる生存訓練や野戦、山岳戦訓練も行った。

 「レンジャーは1人で10人分の働きをするための精鋭部隊。3カ月間の訓練中には、隊員が死ぬことも想定されていた」。実際、別部隊でレンジャー教育中の隊員が脱水症状を起こし死亡していた。

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 訓練中に遺書を書かされた。

 21年間ありがとう、初任給で飯を食べに連れて行ったけど、もっと高い店がよかったかな―。何度も書き直した両親あての遺書を教官に託した。

 「遺書を書くうち、レンジャー訓練や軍事演習が戦争で相手を殺すためだというリアリティーを感じた。同時に、戦争は怖い、死ぬかもしれない、という恐怖感も…」

 井筒さんは1993年に自衛隊を辞めた。

 安保法案では、自衛隊の後方支援活動の範囲を「現に戦闘を行っている現場(戦場)以外」とする。

 安倍晋三首相は「自衛隊が攻撃を受けた場合は、直ちに退避に移る」と答弁した。政府答弁書には「戦闘行為に巻き込まれるリスクが高まるとは考えていない」と記している。井筒さんは「めちゃくちゃだ」と憤る。

 「現場で本当に弾が飛んできて、背を向けたら味方が全滅する可能性が高い。相手にしても、逃げたから許そう、となるわけがない。逃げる相手ごと一網打尽にぶっつぶすのが戦争のセオリーです」

 「安倍さんの発言を聞いていると、自衛隊員は死んで当然、戦争して当たり前という意識が感じられてならない。現場の隊員が本当にかわいそうです」

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 自衛隊の装備面に詳しく、著書も多い軍事ジャーナリストの清谷信一さん(52)も、国会で続く議論に「全くリアリズムがない」と強く反発する。

 「活動範囲は港までなのか、中間地点なのか、前線なのか、全く決まっていない。戦地では輸送部隊が狙われるものです。現状の自衛隊の装備のまま前線に弾や食料を届ければ被害続出でしょう」

 実際、アフガニスタン戦争では、米軍や同盟国軍の輸送部隊が襲撃を受けたり、地雷が仕掛けられたりした。「しかし、通常の自衛隊のトラックは対地雷化はされていない。装甲車も地雷に弱い構造です」

 「救急車も装甲化しておらず、弾がびゅんびゅん飛んでいる時には助けに行けない。地雷を踏んだら、みんな死んじゃう。防衛省はこうした装備に予算を使わない一方、ライフルは米軍より8倍も高い価格で買っている」

 違憲の疑いが指摘される安保法案を進める政権に対し、清谷さんは「憲法さえ変えれば全てうまくいく、という、ある意味で青い鳥を追っている」と言う。

 「このままだと、自衛隊員が死に、手足を失う。現状を無視して法律をつくっても、意味はありません」

 ■安倍晋三首相
 「戦闘が起これば、直ちに部隊の責任者の判断で一時休止、あるいは退避することを明確に定めている。リスクとは関わりがないことだ」(5月20日の党首討論)
 「リスクを低減させる最大限の努力をするが、リスクは残る」(5月27日の衆院平和安全法制特別委)

 ■中谷元・防衛相
 「今回の法整備により、隊員のリスクが増大することはないと考える」(5月22日の記者会見)
 「法律に伴うリスクが増える可能性はあるが、任務をさせる上ではリスクを極小化させる」(6月12日の衆院平和安全法制特別委)

【写真】レンジャー訓練でヘビを生きたまま手でさばいて食べる井筒高雄さん(井筒さん提供)


 
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