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安保法案は何を変えるか

15年7月6日付・朝刊

安保法案に親日感情崩れる懸念 高知市の元NGOら警告

 米軍と自衛隊の軍事協力を深化させる安全保障関連法案に、民間支援の現場から懸念の声が出ている。中東で活動してきた専門家は「日本人がテロの標的になる危険が高まる」という。変わりつつあるアラブ世界の日本像がさらに悪化する恐れが強いからだ。

 高知市の杉尾智子さん(35)には、忘れられない言葉がある。

 日本の非政府組織(NGO)職員としてヨルダンで2009年から約1年半、イラク戦争で生じたイラク難民を支援していた。そのさなか、現地スタッフから真剣に言われたという。

 「日本はずっと中立の立場で尊敬もされてきたのに、徐々に米国に寄ってないか。これ以上米国に付いていけば、どう見られるか分からないよ」

 アラブの人々は総じて親日的だった。「米国に原爆を落とされたのにあんなに発展した」との言葉をよく聞いた。「中東を侵略した歴史を持つ欧米とは違う、という見方でした。でも…」

 イラク戦争から6年が経過し、多くの子どもが心に傷を負っていた。心のケアに取り組む中、「僕は将来、戦争に行く」と憎しみを込めて話す子もいた。

 杉尾さんは今も国際協力団体で活動を続けている。

 「あの言葉が現実味を帯びてきました。敵や憎しみをつくる世界に日本がこれから入っていかないか、不安を感じます」

  □  ■  

 米軍侵攻後のアフガニスタンで、日本政府の代表として現地の武装解除を指揮した伊勢崎賢治・東京外語大大学院教授(58)は「安保法案ができれば、日本人がいつテロに狙われてもおかしくない」とみる。

 伊勢崎さんは各地で国連平和維持活動(PKO)の幹部を務めた経験を持つ。アフガンでの武装解除は日本に任せられた任務で、伊勢崎さんは2002〜2003年、各地の軍閥に対し、戦車など重火器を放棄するよう交渉した。

 治安が確立されない状況下、軍閥は国の主導権をめぐり戦闘を始めており、説得には細心の注意が必要だった。それでも6万数千人を武装解除させた。

 その際、軍閥幹部が口をそろえたのが「日本に言われたら仕方ない」という言葉。ドイツやノルウェーの外交官・軍幹部からは「地上部隊を出したわれわれにはできない仕事」とも言われたという。

 「これこそ日本が積み上げてきたものです。憲法9条は制約ではなく、『戦争をしてこなかった』という信頼感として伝わっていた。決して占領者にならないというメッセージはとても強かった」

 伊勢崎さんは、2001年成立のテロ特別措置法に基づくインド洋での米艦船への給油のほか、イラク特措法による戦後イラクへの自衛隊派遣に関しても「米国の武力行使と一体化し、違憲だった」と訴える。

 「もう9条を宣伝するのも恥ずかしい。日本の印象は着実に崩れています」

 実際、自衛隊のイラク派遣中には、宿営地にロケット弾が撃ち込まれ、日本人人質事件も起きた。「安保法案は(国際社会では)米国と一緒に戦う政治的メッセージに映る。日本人を危険にさらす自傷行為です」

  □  ■  

 日本人を狙った事件はその後も続く。2015年1月、イラクなどで台頭した過激派組織「イスラム国」によって、日本人2人が殺害された。安倍晋三首相はこの直前、エジプトで「イスラム国と戦う周辺各国に2億ドルの支援を約束する」と演説していた。

 現代イスラム研究センター理事長の宮田律さん(60)は事件後、ヨルダンの宗教活動家や研究者にインタビューした。多くが安倍首相の「宣言」が影響した、と答えたという。

 「これまでも人道支援をしてきたのに『テロと戦う』という新しい形容詞をわざわざ付けた。過激派に日本を敵視する理由を与えたも同然です」

 英国の経済平和研究所の調査では、2001年の米同時テロ後に米国が対テロ戦争を始めたことで、世界のテロは急増した。2013年は約1万件で2000年の7倍近い。宮田さんは「軍事力でテロをなくすのは不可能」と言う。

 「イスラム国もイラク戦争が生み出したもの。対テロ戦争は負の結果しかもたらさなかった。安保法案で米国の中東政策とも一体化が進むでしょう。テロの危険は旅行者や企業人、NGOなどに及ぶし、場所も中東に限らないと思います」

安倍首相 後方支援ない/中谷防衛相 法律上可能

 ■安倍晋三首相
 「自衛隊がかつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことは今後とも決してない」
 「(中東の過激派組織「イスラム国」掃討作戦に対し)われわれが後方支援することはない」(5月14日、安保法案閣議決定後の記者会見)

 ■中谷元・防衛相
 「イスラム国」に有志国連合が軍事作戦を展開する場合、自衛隊を後方支援で派遣する可能性はあるか、との質問に対し、「国連決議などに基づいて判断する。法律上は可能」(6月1日、衆院平和安全法制特別委員会。翌日の参院外交防衛委員会では「政策判断として考えていない」と発言)
 「今回の法整備は、国際テロ対策を直接強化するための主たる方策とは考えていない。日米同盟が強化されるのでテロ活動を抑止し、わが国の安全を守ることが可能になる」(6月1日、衆院平和安全法制特別委員会)


 
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