安保法制 関連記事

安保法案は何を変えるか

15年7月2日付・朝刊

政府の砂川判決“曲解”に高知県内の法律家が怒る

衆院憲法審査会が開いた公聴会

「法治国家と言えなくなる」「合憲の根拠なし」

 安全保障関連法案の「合憲」の根拠として、安倍政権が1959年の「砂川事件」の最高裁判決を再三持ち出している。この姿勢に対しては、高知県内の法曹界や研究者も強く反発する。「集団的自衛権は必要か、国際情勢はどうか、という以前の問題。法治国家かどうかが問われている」との譲れぬ一線があるからだ。

 砂川判決への言及が増えたのは、6月4日の衆院憲法審査会で、自民党推薦を含む憲法学者3人が「違憲だ」と指摘してからだ。6月17日の党首討論でも安倍晋三首相は安全保障関連法案の「合法性に確信を持っている」と、またしても砂川判決に言及した。

 これに対し、高知地裁所長を務めた元裁判官の溝渕勝さん(73)は「判決文のどこをどう読んだら集団的自衛権行使の根拠になるのか」と語気を強める。

 「砂川事件が起きた50年代は自衛隊の存在が違憲かどうかを争っていた時代。裁判も、そもそも日本は自衛権を持てるのか、ということが争われました。(この最高裁判決などを基に)その後、個別的自衛権の範囲に限って自衛隊はぎりぎり合憲との解釈を定着させてきたのは、歴代の自民党政権ですよ」

  □ ■ 

 

 溝渕さんは5月から、市民団体「高知憲法アクション」の呼び掛け人として安全保障関連法案に反対している。

 「一内閣が憲法の枠を超えて解釈変更できるなら、法治国家が成り立たない。安保法案は明らかに違憲。ほとんどの裁判官が違憲と判断するはずです」

 安倍政権はこの間、砂川判決が認めた「主権国としての固有の自衛権」には集団的自衛権も含まれるとの姿勢を崩さず、首相も「決めるときは決める」と今国会での成立を宣言している。

 ただ、実際に安保法案が違憲かどうかを裁判所で審理するためには、自衛官が出動命令を拒否して処分されたり、海外で戦死者が出たりするなど、具体的な「出来事」に基づく訴訟がないと難しい。

 溝渕さんも「与党が数の力で採決し、集団的自衛権が既成事実化される恐れが強い。そうなってからは覆しづらい」と話す。

  □ ■  

 高知弁護士会は6月末、安保法案の速やかな廃案を求める会長声明を出した。会長の大塚丈さん(40)は「安保強化の必要性など、弁護士にもいろいろ意見があるけど、法案が解釈改憲の限界を超えている点では、ほぼ異論はない」と言う。

 「私自身は自民党支持者ではないけど、これまで自民党の政策に賛成することが多かった。そんな人でも『おかしいんじゃない?』と思う内容です」

 声明作成に際し、かつて司法試験突破を目指して何度も読み込んだ憲法のテキストを書庫から出してきた。法曹界を目指す人たちのバイブル的存在、芦部信喜氏の「憲法」(岩波書店)。芦部信喜氏の「憲法」には、日本では「集団的自衛権は認められない」とはっきり書いている。

 「砂川事件は必ず習います。しかし集団的自衛権を『行使できるという学説もある』といった説明は一切なかった」

 集団的自衛権の行使容認には憲法改正が必要―。その考えに揺らぎはない。

 「なぜ憲法があるのか。人の支配ではなく法の支配だからです。権力を縛るためです。権力を持つ人間が相当な裁量を持って(憲法の解釈を)変えられるという考えは全くの矛盾ですね」

  □ ■  

 衆院憲法審査会は6月15日に高知市で公聴会を開いた。意見陳述人6人のうち、解釈変更による集団的自衛権の行使を容認したのは尾ア正直知事だけ。反対した一人で、憲法学の岡田健一郎・高知大学准教授(35)は言う。

 「本来なら憲法改正の国民投票で決めるべきです。政府が解釈で変えるのは、主権者である国民から憲法改正の権利を奪うこと。今行われているのは国民主権の否定です」

■国際状況見て判断/学者より考えてきた■

 【安倍晋三首相】
 「(砂川事件の)判決にある『必要な自衛の措置』にはどこまで含まれるのか、国際状況を見て常に判断しないといけない」(6月17日の党首討論)

 【高村正彦・自民党副総裁】
 「最高裁の判決の法理に従って、何が国の存立を全うするために必要な措置か、ということについては、大抵の憲法学者より私の方が考えてきたという自信はある」(6月11日の衆院憲法審査会後、記者団に)

 【北側一雄・公明党副代表】
 「憲法9条の下でどこまで自衛の措置ができるかの検討は、内閣と国会に委ねられている」(6月11日の衆院憲法審査会)

■砂川事件と最高裁判決■

 米軍立川基地(東京都の旧砂川町など)で1957年7月、基地反対のデモ隊のうち7人が基地に侵入したとして、刑事特別法違反罪で起訴された。1959年3月の一審・東京地裁は「米軍駐留は憲法9条で禁止された戦力の保持に当たり違憲だ」として全員を無罪にし、検察側が最高裁に跳躍上告した。

 1959年12月、最高裁は@憲法9条は日本固有の自衛権を否定していないA米軍駐留は憲法に反しないB高度な政治性を持つ条約は極めて明白な違憲でない限り違憲かどうか法的判断を下せない―と判断。「自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置を取り得る」とした。

 しかし、この部分は判決を導く直接の理由付けではなく、“傍(ぼう)論”と呼ばれる部分で示された。また裁判の争点は駐留米軍の合憲性にあり、与党公明党の北側一雄副代表も以前、「裁判では集団的自衛権は問題になっていない」と述べていた。

 最高裁の審理過程では、当時の駐日米大使が日本の外相に跳躍上告を促す圧力をかけ、最高裁長官と密談して介入したことが米側の公文書で明らかになった。日本側も関連文書を2010年に公開している。

【写真】衆院憲法審査会が開いた公聴会。安保法案への反対意見が続いた(6月15日、高知市内のホテル)


 
総カウント数
本日は
昨日は

 ・「安保法制は何を変えるか」次の記事へ
 ・「安保法制 関連記事」トップページへ
 ・高知新聞フロントページへ