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15年6月10日付・朝刊

集団的自衛権丸ごと違憲 長谷部・早大教授にインタビュー

解釈変更の拡大懸念

長谷部・早大教授

異常な解釈改憲

 「集団的自衛権の行使は違憲です」。憲法学者の長谷部恭男・早稲田大学教授(58)は高知新聞のインタビューの中で、4日の衆院憲法審査会と同様、集団的自衛権行使を可能にする安全保障関連法案を「違憲」と断じた。一内閣の解釈変更によって憲法を事実上変えていく動きを「異常」とも言う。衆院審査会での発言の真意や安全保障関連法案の問題点、立憲主義とは何かなどについて、じっくり語ってもらった。 

▼集団的自衛権 9条で認められず

 ―4日の衆院憲法審査会に自民党の参考人として出席し、安全保障関連法案については「集団的自衛権の行使が許されるとした点は憲法違反だ」と述べました。自民党側から(発言内容に関して)何か事前に要請はありましたか。

 「あまり知られていませんが、参考人が何党の推薦を受けているのかは、実ははっきりと分からないことが多いのです。(衆院の)事務サイドから連絡が来るので。特定秘密保護法のときも参考人として(国会審議に)出席しましたが、自民党の推薦だと言われたのはその場です。今回も『自民党かもしれない』ぐらいのことは、ぼんやりとうかがっていましたが」

 ―長谷部さんは以前から、著書などで集団的自衛権の行使に反対していました。

 「その点は変わっていません。今回の安保法制も、集団的自衛権に関しては丸ごと違憲です。条文の形になっているのは法案の一部ですが、核心的部分ですからね」

 ―具体的には。

 「自衛隊法改正案がそうです。『存立危機事態』でも防衛出動を命じることができる、というのは、明らかに集団的自衛権の行使を想定しています」

 ―「後方支援」についても、戦闘地域と非戦闘地域の線引きがなくなる、と言われています。

 「従来の政府見解として、いわゆる『大森4要素』があります。現場指揮官がその場その場で判断するのは困難なので、『戦闘地域』と『非戦闘地域』に明確な線を引き、後者の範囲内で活動すると。そうすれば武力行使との一体化の恐れはないとされてきました」

 「今は国会で『弾薬も提供する』とか、『発進中の航空機の給油もする』とか言われますが、常識的に考えれば一体化してますよね。『戦闘現場でのみ自衛隊は後方支援活動をしない』と言うだけでは、一体化を避けるのは無理です。戦争とは生き物。どんどん動きますから」

 ―これまでも憲法解釈を通じて自衛隊活動は広がってきました。過去の問題と今回の安全保障関連法案は、どう違うのでしょうか。

 「全く次元が違いますね。憲法9条によって(日本の)武力行使は原則ゼロになっています。しかし国民の生命、財産も守れない、というわけにはいかない。それはどこの政府も最低限やる活動だろうということで、『9条の範囲でどこまで許されるのか』で個別に法律を作ってきました。その際も9条があるから、認められるのは個別的自衛権。わが国が外国から攻撃されて、ほかに手段がないときは最低限の実力行使は認められるという話でした。これは憲法の原則が広がったことを意味しません」

 「しかし、集団的自衛権は早い話、他国の防衛のために武力行使をすること。9条があるのに、これを認めることはあり得ない。いや、これは私だけが言ってるんじゃなくて、歴代の政府がずっとそう言ってきたのです。集団的自衛権を行使するなら憲法を改正しないと駄目だ、と繰り返し確認されてきた話です。解釈を変えるのは、まっとうな手段とは言えません」

 ―長谷部さんは「現行憲法に改正すべき点は見当たらない」と著書で述べています。

 「今のところはそう。与党の皆さんは『安保法制が通れば日本はより安全になる』とおっしゃるけど、そんな保証は全くない。仮に安全保障環境が以前より危険だと言うなら、日本の限られた防衛力を地球全体に拡大するのは愚の骨頂。サッカーで自陣のゴールが危ないのに選手を敵サイドに分散させるチームがありますか?」

 「米国に軍事協力をすれば、日本の安全保障にも参加してくれると希望的観測を抱く人もいるようだけど、それは甘い。米国は自分の国のためにしか軍隊を動かしません。どこの国もそうです。さらに米国は本格的な軍事行動に連邦議会の承認が必要で、大統領制下では議会が政府の言うことを聞くとは限らない。日本の国会承認とは全く違うものです」

 ―安全保障関連法案が成立すれば、軍拡競争につながるという懸念の声もあります。

 「与党の方々は『抑止力を高める』とおっしゃるが、こちらが高めると、向こうはさらに軍備を増強するかもしれない。第1次世界大戦も第2次世界大戦も、抑止力競争の結果として始まりました。『抑止力を高めれば平和になる』というのも希望的観測です」

 ―歴史を振り返っても抑止力競争の行き着く先は、戦争ということでしょうか。

 「抑止力を高めても安全になる可能性はない、とは申しません。より危険になる可能性も少なくとも同じ程度あるということです。日本周辺の安全保障環境はそんなに変わっていないはずですがね」

  【大森4要素】 自衛隊の海外派遣に際しては、他国軍の武力行使と一体化するのではないか、との懸念がある。その一体化に関する政府の判断基準を示したもので、1997年に大森政輔・内閣法制局長官が国会で答弁した。「大森4要件」とも呼び、@自衛隊と他国軍の地理的関係A自衛隊の活動の具体的内容B他国の武力行使に当たる者との密接性C協力相手の活動の現況―の四つを総合勘案し、個別に判断するとの内容。憲法9条の下で、海外へ自衛隊を派遣する場合に用いる、とした。

▼平和主義 憲法の根幹変わる

 ―憲法改正をめぐっては、いかに適正な手続きを踏んでも、改正できないものがある、との考えがあります。例えば、人類が積み上げてきた基本的人権の尊重などです。

 「それはそうだと思います。(どんな改正があるにせよ)平和主義の原則は入るべきでしょうね」

 ―集団的自衛権の行使を可能にする憲法改正は。

 「それはできます。集団的自衛権はアメリカもイギリスもフランスも行使していますしね。極めて限定的なものなら、集団的自衛権も平和主義の大原則と両立する、と言う人もいるかもしれません。国民投票で承認を得ようとするなら、過去の戦争の歴史も含めて一生懸命説明し、それで集団的自衛権を行使しようとなれば、憲法学者がどうこう言う話ではありません」

 ―現状はその過程を飛ばし、解釈で事実上の改正をしようとしています。

 「憲法とは、そのときたまたま首相になった人の考えで、やたら動かしてはいけない。そのための憲法です。だから、なかなか変えにくくしているのです。安倍首相は今のサミット(先進7カ国首脳会議、ドイツ)で『人権、民主主義、法の支配を守る』とおっしゃったけど、法の支配を守るなら、今の憲法を守るべきです。自分で破っておいて『守る』とは。言ってることと、やってることが違います」

 ―長谷部さんは「戦争とは憲法と憲法の戦い」だと述べています。

 「憲法が違うと、最悪の場合、戦争が起きるのでね。どの国と仲良くするかを決めているのは憲法なのです。かつて、憲法の違いから(日本は)アメリカと戦争をして、ポツダム宣言で『戦争を終結したいなら憲法を根本的に変えろ』と言われたわけです。憲法が再び根本的に変われば、大戦争が起きる可能性は常にあります」

 ―一方、私たちは日常生活で、そこまで憲法を深く意識していません。

 「日々の生活との関係は薄いし、もっと大事なことだってあるでしょう。『夕飯の献立の方が大事だ』と。私もそう思います。実は、憲法のことを日々考えなくて済むのは大変ハッピーな国民なんですよ。ただ、安保法制は憲法の根幹を変えるという話。いずれ、憲法のことを日々考えることになるかもしれない。今は夕食の献立が大事だけど、5年後はそんなこと考えていられない、となるかもしれません」

 ―選挙で政治家を選ぶ際の基準も、憲法は上位ではありません。

 「まず経済。どこの国もそうです」

 ―経済に引っ張られて最終的に憲法が変わり、国が変わったという例はありますか。

 「まさにヒトラーがそう。政権を取って景気が良くなりました。大規模な公共工事をやって、失業率はどんどん下がった。でも、日本では国民1人当たりの所得はここまで上がっているので、再び独裁制になるとは思いません」

 ―それでも、ふと気付くと、深刻な変化に気付くことはあり得るのでしょうか。

 「ああ、あのときだったか、とね。今回は一つのポイントだと思います」

 ―憲法の事実上の改正を解釈変更によって行うことが、なぜ駄目なのか。あらためて聞かせてください。

 「要するに『変な国』になっちゃう、ということ。憲法は他国と交渉する際の、最後のよりどころです。『憲法にこうあるから無理だ』と言えてきたのを『いや、それは自己都合で変えられる』って天下に示したわけですから。今後は『じゃあ解釈を変えればいい』と言われますよ」

 ―憲法のありようは私たちの内面と関わっているのでしょうか。

 「人の生き方、考え方はそれぞれだから、それを公平に認めようというのが今の日本国憲法です。しかし残念ながら、与党にはその考え方自体が気に入らないという方々がいらっしゃるようです。だから憲法を変えて、人々に同じ考えをしてもらおうとするのは困ります。また戦争をしないといけなくなるので」

 ―人の心を縛るような改正もあり得るということですか。

 「人の内面を縛るのは一種の革命信仰です。制度を変えれば人民の精神を革新できる、皆が『正しい人』になるという信仰は、実はどの時代にもどの国にもあります。マルクス主義もフランス革命時のジャコバン独裁も、ナチズムもファシズムもそうでした。そんなに珍しくなくて、特にエリートの中に結構いるんですよ」

 ―憲法審査会で参考人が全員「違憲だ」と主張し、自民党委員が党幹部に「人選ミスだ」と怒られたとか。

 「かわいそうに。『だったら、あなたが探してきてくださいよ』という話でしょう? そう簡単には見つからないはずです。立憲主義について語る素養があって、かつ合憲と言える人って、どこにいるのか、という感じですから」

 ―そんな法案が国会で審議され、与党側はなお「合憲」と主張しています。

 「末期的ですね。何の末期かは分かりませんが」

▼審査会参考人 学者の99%「違憲」

 ―衆院憲法審査会の後、政府・与党側から参考人の「人選ミス」との声が出てきました。安全保障関連法案を合憲という憲法学者もたくさんいる、と。実際、いるんでしょうか。

 「圧倒的多数、99%の学者は違憲の立場ですよ。少なくとも集団的自衛権はそう。残る1%はどんな人かと? 私の口からは申し上げられない。あまり付き合いもないし、学会でも会わない…。かなり偏った立場です」

 ―国会議員や閣僚には憲法99条で憲法の尊重擁護義務があります。その人たちが自らその枠をはみ出そうとしています。

 「異常です。憲法の枠を外そうとして、それがどこまで広がるかも分からない。枠自体をなくす法案の審議は今までにないことです。例えば、集団的自衛権が認められれば、自衛隊はホルムズ海峡で機雷掃海ができると言う。しかし、それ以上のことはできないかというと、その保証は全くない。安倍首相は『イスラム国の掃討作戦には参加しない』とおっしゃったけど、今の首相が今そう言っただけ、という話になります」

 ―ホルムズ海峡の機雷掃海は個別的自衛権で対処できる、という主張もあります。

 「あり得ます。(4日の衆院憲法)審査会でそう発言した小林節先生(慶応大名誉教授)に対し、北側一雄さん(公明党副代表)が『国際法はそういう使い方はしない』とおっしゃっていたけど、これは日本国憲法の問題です。日本の憲法で個別的自衛権だと考えられているものだけが認められる、という話。日本を防衛している米国艦船が外国から襲撃を受け、日本が反撃するのは当然ありですが、それを『集団的自衛権だ』と言う人が『だから使えるように』という議論は全く説得力がありません」

 ―ホルムズ海峡の一部はイランなどの領海です。他国内に置かれた機雷を、自国の個別的自衛権によって除去する行為は無理ではないのですか。

 「両論あり得ると思います。ただ、イランが機雷を敷設する可能性はない。イラクで『イスラム国』掃討の力になっているのはイランの革命防衛隊です。今後、アメリカはイランと協力することはあってもけんかは考えられない。『日本に原油が来なくなったら?』なんて、全く非現実的なファンタジーです」




異常な解釈改憲

 国会で審議中の安全保障関連法案について、4日の衆院憲法審査会で「集団的自衛権の行使は違憲だ」と発言した自民党参考人の長谷部恭男・早稲田大学教授(58)が高知新聞のインタビューに応じ、「憲法9条があるのに集団的自衛権の行使を認めることはあり得ない」と述べた。行使には憲法改正が必要と強調し、解釈変更によって進める安倍政権の動きを「末期的だ」と厳しく批判した。

 長谷部教授は集団的自衛権の行使に従前から反対している。

 インタビューの中で長谷部教授は、安全保障関連法案の成立を目指す自民党の推薦ながら国会で「違憲」と述べた理由について「聞かれたから、自分が思う通りに話した。集団的自衛権に関しては丸ごと違憲だ」と語った。

 現行憲法では集団的自衛権が行使できないのは「歴代の政府が言ってきたこと。(今回の安保法制は)次元が全く違う。まっとうな手段じゃない」と反対の立場を強調し、「安全保障環境が以前より危険だというなら、日本の限られた防衛力を地球全体に拡大するのは愚の骨頂だ」と指摘した。

 解釈変更で事実上の憲法改正を進める現政権の動きを「異常だ。変な国になる」と強く反発。仮に集団的自衛権が行使可能になったとしても、「イスラム国の掃討作戦には参加しない」とした首相発言に対し、「今の首相がそう言っただけ、という話になる」とし、時の権力者によって解釈変更が拡大する懸念を示した。

 ホルムズ海峡にイランが機雷を敷設するという想定も「考えられない。全くのファンタジーだ」と述べた。

 長谷部教授はさらに「憲法が再び根本的に変われば大戦争が起きる可能性は常にある」「憲法のことを日々考えずに済む国民は大変ハッピーだが、今回は根幹を変える話。いずれ日々考えるようになるかもしれない」と述べた。

 また、審査会後に与党から「人選ミス」との声が出たことについては「99%の憲法学者が違憲との立場。(人選ミスと言うなら)合憲だという学者を探してください、という話。立憲主義について語る素養があって、かつ、合憲だと言える人がどこにいるのか」と強く反論した。

 取材は8日、東京の早稲田大学で行われた。

  はせべ・やすお 憲法学者。憲法学の権威と言われた故芦部信喜・東大名誉教授の門下生。1979年東大法学部卒。学習院大教授、東大大学院教授などを経て、2014年から早稲田大学法務研究科教授。議論を呼んだ特定秘密保護法には賛成し、特定秘密保護法案の国会審議では自民党推薦の参考人として意見を述べた。著書に「憲法と平和を問いなおす」「憲法とは何か」など。広島市出身。58歳。


 
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