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高知は、自分でいられる所 長野のSSW タテタカコ二〇〇四年、カンヌ映画祭で最優秀主演男優賞を獲得した「誰も知らない」の挿入歌などで知られる、シンガー・ソングライターのタテタカコ(28)。彼女が三月、初のフルアルバム「イキモノタチ」をリリースした。ジャケットを開く。そこに写っているタテが立っている場所は―緑色の屋根の電車が走る、高知市のはりまや橋交差点。 実は、このアルバムの曲のいくつかは高知で録音している。ジャケットに使われた絵も、本県在住のミュージシャンのものだ。タテは言う。「高知は自分でいられる場所」。そんな深いつながりの源を、四月の全国ツアー高知ライブ2daysとともに、たどった。(敬称略) ピアノの前に、背筋を伸ばして座っているタテ。優しい指使いとともにインスト曲が始まった。四月二十日。高知ライブの初日は、高知市本町一丁目のバー・モザイク。 タテは幼少からピアノを習い、東京の音楽大学に進学。ピアノと歌で生きることを決め、卒業後、古里・長野県飯田市を拠点に活動を始めた。〇四年に「誰も知らない」挿入歌を含むミニアルバム「そら」でメジャーデビューを果たしている。 優しさと強さを行き来するピアノ。口を大きく開いて発する、伸びと張りのある声楽家のような声。そして歌詞。 ライブ中盤に披露した曲「心細い時にうたう歌」。歌詞の一部はこうだ。―バカみたいバカみたい/そんなことしてバカじゃない/見下してけなしてしかいられない― 終盤の「卑怯(ひきょう)者」。―身変わりになる勇気もありません/共倒れする覚悟もないです/ただ自分が倒れないように― 人間の弱さ。それはタテが自分の中の「良く見せようとしたり、かたったり、構えたりするものをそぎ落とし」て見つめ、歌っているものであり、かつ、誰もが持っているものである。 共感が、喝采(かっさい)を呼ぶ。 カウンターの中からバーの店長が拍手を送っていた。小松興二(41)。高知とタテをつないだ人物である。
♪♪♪♪ 〇二年にこのバーを開き、定期的にライブを主催してきた小松。友人からタテのCDを聴かされ、一発で魅せられてしまう。「旋律と声に『おっ、聴いたことないなぁ』と。自分に置き換えて考えられるような詞も良かった」〇五年一月、出演依頼のメールを送信。同年六月、高知初ライブが実現する。 小松にはさらにたくらみがあった。ある旧知のミュージシャンと競演させたい、というものだった。藤島晃一(52)。音楽評論家、ピーター・バラカンも認めた高知のアーティスト。長岡郡本山町を拠点に、国内はもとより海外でも活躍しているブルーズマンだ。 〇六年一月の二度目の来高時に、それは現実となった。以来、タテ、小松、藤島の交流が始まった。五月にも来高。高知市の竹林寺や小松のバーでライブを行うだけでなく、藤島宅で一泊。本山の自然をともに満喫した。 十月。タテが再び藤島の元へやってきた。新作、しかも初のフルアルバムを録(と)るために。 「飯田でミニアルバムが三枚できたから、『もしかしたらほかの所でも作れる』って気持ちが生まれて。じゃあ、どこだって考えたら…いい出会いをさせてもらった沖縄と高知で、と。いい時だけじゃなくて、全部ひっくるめて付き合ってくれる、自分が自分のままいることを許してくれる場所で録りたかった」 ただ録音作業はつらく、険しいものだった。何度も同じ曲をやっても、気に入らない。自転車で逃げ出し、河原に寝転がった。一曲できても次の曲でまたつまずいた。 支えてくれたのは小松と藤島だった。 「小松さんが陣中見舞いに来てくれて…でも、その時はボロボロで。その後、藤島さんが近くの神社に連れてってくれたんです。願い事がかなうからって。そんなふうにしてくれる藤島さんの思いがうれしかった。それで不純なものが、すぅーっと落ちていって、歌に打ち込めた」 本山で録音された曲の一つがアルバムのラストを飾る曲「やわらかい風」。「ロックな感じ」「聴きやすさよりも聴き応え」を求めた新作の中で、異色の優しい歌である。そしてジャケット。藤島が描いていた不思議な「イキモノタチ」の絵を、使わせてもらうことにした。♪♪♪♪ 高知ライブ二日目は四月二十二日、藤島のカフェ。この場所で録った曲などを披露しつつ、アンコールで、こう歌い出した。 ―季節外れの田舎町/ぽつんと歌うおんぼろ家よ/静まり返った歌の中/うつろな目をしたアライグマ― 藤島の曲「あ〜あとがない」。初めて人前で歌った。 「前、ここへ来た時、藤島さんが『いつか歌ってみないか』って教えてくれた曲。今日できたらいいなぁと思ってて…でも難しくって…。リハーサルの時にやることに決めたんです。今日は歌詞カード持ってきてなくて。CDから歌詞起こして」 この日は観客としてライブを見た小松。「やると思うちょったが、やったか」とうれしくなった。藤島は「びっくりしたぁ。ありがとう、ありがとう」と、演奏後のタテと何度も握手していた。 出会いがまた一つ、新しいものを、名カバーを生んだ。 2007年6月1日付・夕刊
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